2015 年 25 巻 1 号 p. 96-103
生命倫理学において自律尊重は重要な原理のひとつである。しかし、自律概念は一義的ではなく、意思決定の枠組みの基礎として未だに議論の余地がある。この問題に関して、G ・ドウオーキンは、自律能力とは、第一次的な欲求や選好を反省して受容したり拒否したりする第二次的な能力であると論じる。これに対して、T ・L ・ビーチャムは、自律的行為とは、意図的であり、理解を伴い、他からの統制的影響がないと いう三条件を実質的に満たせばよいと主張する。また、A ・ヤヴォフス力は、複合的な感情的態度である関心に基づく行為は、自律的行為の最小限の条件を満たしうると論じる。
本稿では、これらの主要な自律理論を比較検討することで、医療の文脈に即した自律的意思決定は、高い次元の反省を必要とせず、患者の価値や目的が変化しうることや、様々な感情によって動かされることをふまえて考察される必要があることを明らかにする。