2019 年 29 巻 1 号 p. 77-84
多系統萎縮症患者の呼吸補助についての意思決定過程を巡る倫理問題を提起する。多系統萎縮症は根治療法のない難病であり、多彩な神経症状のため意思疎通が難しくなるうえ、突然死の主因となる呼吸障害も生じる。呼吸障害については、エビデンスは不十分ながら、気管切開下陽圧人工呼吸( TPPV) が比較的安定した長期生存を実現する可能性がある。だがTPPVを導入する患者はごく少数に限られる。客観的な生の質 (QOL) を低く見積もられてしまうために、人工呼吸器を着けない選択へと誘導されてきたからだと考えられる。本稿では患者3例と家族のインタビューにより、どのように誘導を逃れ、生存を選ぶ決定をしてきたかを明らかにする。進行期にあっても患者との継続的な関係を築くことによって、わずかな動作や表情から患者の意思をくみ取る「言語ゲーム」を成立させることが可能であり、患者本人の自律を尊重した決定を実現すべきである。