2025 年 35 巻 1 号 p. 93-102
医学生の臨床倫理能力、その基礎にある非認知的能力とりわけ低下傾向が指摘されている対人関係能力を伸ばすには、座学による知識伝達型あるいは教説型教育は有効とは思われない。そこで、英米、ブラジルをはじめ諸国で半世紀以上の歴史をもつドラマ教育の導入を検討した。ここでいうドラマ教育は、台本をもとに劇を上演したり、劇場で観劇体験を積ませたりすることではない。即興で自分とは異なる人物になりきって全身を使って表現をし、虚構だがリアルな状況で疑似体験をするという演劇の中心的要素を教育に導入し活用する実践のことである。筆者は、アウグスト・ボアールが編み出した手法を改変して、ロールプレイとは異なる新しい手法を開発し、クリニカル・シアターと名づけ、舞台俳優たちとの協働によって、医学教育に導入した。本稿ではまずドラマ教育の歴史的変遷、諸類型を概観し、後半では、クリニカル・シアターの具体的手順、要件と特異性、そこから学生が何を学んでいるか、そして今後の課題を詳述する。