野生動物のヒトに対する警戒や恐怖の行動指標として飛翔開始距離(Flight initiation distance:FID)がある。FIDを指標とした動物のヒトに対する警戒は検討されているが、対象動物に対するヒトの行動とFIDを調べ、両者の関係を調べる試みはなされていない。本研究では、東京と札幌を調査地とし、野生ハシブトガラス(Corvus macrorhynchos)のヒトに対するFIDと、歩行者のハシブトガラスに対する振り向き行動を調査し、それぞれの行動を都市間で比較した。その結果、FIDは東京より札幌で小さく、歩行者がカラスに対して振り向く確率は東京より札幌で高かった。本研究は、都市に生息するハシブトガラスのFIDにおける都市間差を示す初の報告である。さらに、因果関係は不明であるが、ヒトのカラスに対する日常的な行動はFIDの地域差の要因になっている可能性がある。