顎機能障害は,全身的,精神的な面などを含めた多くの発症因子が働き,それらのいくつかが,生理的な適応範囲を超えたときに発症すると考えられている.多くの症例では,咬合的要因が疾患発症因子の一つといわれているが,顎機能障害と咬合との因果関係についての科学的根拠は乏しく,様々な論議がされている.そして,診断と治療についての明確なコンセンサスはなく,咬合との因果関係において,咬合に介入するべきか否か,また咬合に介入する場合,どのように行うべきかなどは,未だに術者を悩ませる問題である.しかし我々は,咬合的要因の関与がどの程度か,判断を行い,歯科的要因が大きく疑われる場合,もしくは歯科的要因が一部,関連する疑いがある場合,その関連因子となるものに対処する必要がある.筆者は顎機能障害の諸症状を有する症例に対して,歯科的要因についての鑑別診断と対処を,ソフトスプリントを用いて行っている.このスプリントに対して,顎機能障害や顎運動痛などの主症状に関連すると思われる随伴症状(筋触診での誘発痛部位),開口量および開閉口路など,客観的に評価できる所見から得られた情報をもとに調整を加えている.この方法によって,顎機能障害の患者に対して,良好な結果が得られていることを,臨床では数多く経験している.本説では,症例報告としてソフトスプリントを用 いた.顎機能障害の診断ならびに治療法をについて述べる.【顎咬合誌 38(3):173-181,2018】