2019 年 39 巻 1-2 号 p. 35-44
患者は15 年ほど,歯科医院を受診しておらず,奥歯のかみ合わせがないことを主訴に,全顎的な歯科治療を希望して来院した.口腔内所見では,臼歯部は残根状態で咬合支持が喪失しており,閉口時に反対咬合所見を呈していた.医療面接,口腔内診察・検査,エックス線検査,摂取可能食品質問表から,仮性反対咬合と咬合支持の喪失による咀嚼および審美障害と診断した.治療方針として,診察・検査,診断後,不良な口腔状態を改善し,治療用義歯を装着して下顎位の安定化を図ってから,最終補綴装置の製作に移行する治療計画を立案した.患者の了承を得た後,歯冠修復処置,磁性アタッチメントと歯冠外アタッチメントを用いてフルマウスリハビリテーションを行った.咬合支持を喪失した患者にフルマウスリハビリテーションを行った結果,仮性反対咬合の改善が認められ,審美的回復が得られた.初診時の咀嚼スコアは48.2 であったが,最終補綴装置装着後の咀嚼スコアは94.6 となり,咀嚼機能および発音機能の回復が確認でき,患者のクオリティ・オブ・ライフの向上に寄与できた.【顎咬合誌 39 (1・2):35-44,2019】