2020 年 40 巻 1-2 号 p. 53-59
本症例(患者:60 歳,女性)は,前歯部は一部反対咬合でアンテリアガイダンスがなく,臼歯部は両側の咬合支持を喪失に対して,パーシャルデンチャーによる咬合再構成で機能回復した症例である.このような症例では,矯正治療による前歯の被蓋(anterior coupling)の回復とインプラントなどによる確実な咬合支持の回復が望ましいと考えられる.しかし,患者の希望により,次善の対処策として,前歯部は歯冠補綴による形態修正,臼歯部はオルタードキャストテクニックにより,粘膜と維持歯との被圧変位差を補正し,両側遊離端の部分床義歯で咬合再構成を図った.診断用ワックスアップを元に製作したプロビジョナルレストレーションを装着し,適切な下顎位を試行錯誤的に模索した.半調節性咬合器上のセカンドプロビジョナルレストレーションで,前方および側方運動時の臼歯離開(posterior disclusion)が得られたことを確認し,最終補綴に移行した.最終補綴装置装着後,6 年が経過し,上顎前歯部のセラミックスにチッピングを認めたが,歯周組織の状態を含め,概ね経過は良好である. 【顎咬合誌40(1・2):53-59,2020】