上顎総義歯の中切歯切縁の位置は,咬合床の高さに影響される.咬合採得時に咬合床の高さが口腔内の状態と大きく異なるとその調整には時間を要する.そこで平均的な咬合床の高さについて,新たに基準値を提案する目的で,無歯顎患者の新完成義歯の上下顎正面観を写真撮影し,写真上で上顎中切歯の人工歯切縁の位置を計測した.調査は, 186 名の新義歯の上唇小帯付近の歯肉唇移行部から下唇小帯付近歯肉唇移行部(または相当部)までの距離(A)と, 上唇小帯付近の歯肉唇移行部から上顎中切歯人工歯切縁までの距離(B)を測定し,A:B の比率を計算した.有歯顎者のA:B の平均比率は1:0.57 と報告されているが,今回の総義歯の調査では1:0.64 であった.この結果から総義歯における上顎中切歯の切縁は,天然歯より下方に位置することが示唆された.この結果は,上顎咬合床製作時に参考にすることができる.