日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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41 巻, 3 号
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総説
  • 下野 正基
    2022 年 41 巻 3 号 p. 193-200
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    「生物学的幅径」は厳密には,付着(接合)上皮と骨縁上付着組織の歯冠-根尖方向の垂直的な距離を加算した値と定義される.おそらく,付着上皮は防御性の生理学的障壁(バリア)を持つ重要な部分であり,この部分が侵されるとその影響が歯周組織の健康に及ぶと考えられたため,「生物学的幅径」と名付けられたものと推測される.本総説論文では,生物学幅径に関連する歴史的背景,固定値の有用性,修復物のマージン, 生物学的幅径を侵襲する審美歯科治療,矯正的圧下移動,Caffesse ほかの実験が意味すること,補綴物マージンに関するワールドワークショップ 2017 の見解,そして生物学的幅径(骨縁上付着組織)に関する結論と臨床的妥当性について述べる.

  • 田上 順次
    原稿種別: 総説
    2022 年 41 巻 3 号 p. 201-207
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    ダイレクトボンディング修復における接着に際しては,リン酸エッチングを行うものとセルフエッチング技術を用いるものに大別できる.リン酸エッチングを象牙質に行うと,非処理象牙質表面の脱灰が深くまでおよび,露出したコラーゲン線維の層にボンディングレジンが十分に浸透しない.その結果このコラーゲン線維層が長期的に劣化することが確かめられている.セルフエッチングによる接着材の中でも2 ステップのものでは,象牙質表面の脱灰層にボンディングレジンが十分に浸透して優れた長期接着耐久性を発揮する.1 ステップ型では特にエナメル質への接着性が十分でないことが多く,一般的にはリン酸によるセレクティブエナメルエッチングが推奨される.耐久性に優れた接着材層を形成すするためには,十分な光重合を心掛ける.窩洞形成においては,う蝕象牙質内層を保護することが歯髄保護につながる.窩洞内でのギャップ形成を抑制するためには,フロアブルレジンによるライニングを行うことが極めて効果的である.

特別寄稿
  • 二宮 嘉昭, 武知 正晃
    原稿種別: 特別企画
    2022 年 41 巻 3 号 p. 208-211
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    左側下顎水平埋伏智歯抜歯時に,ゼクリアバー(サージカルカーバイドバー)の破折片が抜歯窩に迷入した1 症例を報告する.患者は22 歳,女性で,左側下顎水平埋伏智歯抜歯のために,紹介元歯科を受診した.歯冠分割時にゼクリアバーが破折したため,パノラマエックス線写真を撮影したところ,抜歯窩にゼクリアバーの破折片と思われる1 本の不透過物を認めた.紹介元歯科では破折片の除去が困難であったため,破折片の除去を目的に同日当科を紹介され受診した.初診時,抜歯窩からの出血を認めたため止血を行った後,抗菌薬による消炎を行った.2 カ月後,全身麻酔下にて左側下顎水平埋伏智歯抜歯窩に迷入したゼクリアバーの破折片を除去した.

原著
  • 笹原 将則
    原稿種別: 原著
    2022 年 41 巻 3 号 p. 212-216
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    上顎総義歯の中切歯切縁の位置は,咬合床の高さに影響される.咬合採得時に咬合床の高さが口腔内の状態と大きく異なるとその調整には時間を要する.そこで平均的な咬合床の高さについて,新たに基準値を提案する目的で,無歯顎患者の新完成義歯の上下顎正面観を写真撮影し,写真上で上顎中切歯の人工歯切縁の位置を計測した.調査は, 186 名の新義歯の上唇小帯付近の歯肉唇移行部から下唇小帯付近歯肉唇移行部(または相当部)までの距離(A)と, 上唇小帯付近の歯肉唇移行部から上顎中切歯人工歯切縁までの距離(B)を測定し,A:B の比率を計算した.有歯顎者のA:B の平均比率は1:0.57 と報告されているが,今回の総義歯の調査では1:0.64 であった.この結果から総義歯における上顎中切歯の切縁は,天然歯より下方に位置することが示唆された.この結果は,上顎咬合床製作時に参考にすることができる.

  • 安部 佐織, 川畑 仁克
    原稿種別: 原著
    2022 年 41 巻 3 号 p. 217-222
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    国の事業として「高齢者の低栄養防止や口腔,服薬,生活習慣病等に対する重症化予防等の推進」が導入されたが,寝たきり等の在宅の要介護者の中には通院による受診が困難で健診や指導を受けられない人がいる.そのため平成28 ~30 年度,岐阜市歯科医師会は委託を受けて在宅要介護者等への訪問歯科健診事業を実施した.今回健診で得られた知見について報告する.平成28 ~30 年の3 年間,岐阜市に居住する要介護3 ~5 の要介護高齢者のうち,申請があり,歯科治療や居宅療養管理指導を受けていない56 名に対して歯科医師と歯科衛生士が訪問歯科健診と歯科保健指導を行った.しかし,本事業の対象者が要介護度3以上であることから,意思疎通が困難なケースが散見された.健診内容には受診者へ指示が必要な項目もある.そこで今回,評価項目の中で最も有効なものを抽出するために,他の指標と最も多く相関するものを調査する.今回は健診項目の中の要介護度,現在歯数,臼歯部咬合関係,口腔機能評価5 項目において統計分析を行った.統計分析はスピアマンの順位相関係数を用い,統計学的水準5%とした. 健診結果のデータは匿名化された情報を用いた.今回の検診結果のデータを統計学的に分析したところ臼歯部咬合関係はせき払いとRSST に有意な相関を認めた.この結果より咬合関係の変化と咽頭筋群との間に関連があるのではないかと思われる.また挺舌は咀嚼筋触診,せき払い,空ブクブクうがい,RSST との間に有意な相関を認めた.このことから挺舌の診査は咀嚼筋,口輪筋及び咽頭筋群の口腔に関連した筋肉群の機能低下を推察する一つの指標となり得ることが示唆された.

  • 吉用 卓
    原稿種別: 原著
    2022 年 41 巻 3 号 p. 223-229
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    目的:根管治療の永続性は,根管内の確実な機械的清掃に負うところが大きい.ステンレススチールファイル(以下SS ファイル)とNi-Ti ロータリーファイル(以下Ni-Ti ファイル)とともにその改良法を評価する.材料・方法:単根管歯で根管が比較的直線的な抜去歯を実験歯とし,根管内を染め出し液で染色したのち,①手用S S ファイル(マニー社)による根管拡大,②X Smart plus エンジン(Dentsply 社)仕様のNi-Ti ファイル(VDW 社)による根管拡大,さらに改良法である③歯冠側1/2 ~1/3 を頬舌的に拡大したのち①と②を併用した根管拡大を行なった.それぞれ単純エックス線撮影による拡大評価,分割後根管壁面を直視観察による評価を行なった.結果:改良法では根管清掃状態の向上が観察された.器具の特性を活かして用いることにより,拡大時間の短縮,解剖学的根管に沿った拡大ができることが示唆された.

  • 山岸 三津子
    原稿種別: 原著
    2022 年 41 巻 3 号 p. 230-237
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    不正咬合を主訴に小児が歯科医院を受診する時期は,養育する保護者の意識に左右される.そこで今回,当院を受診した1 歳~11 歳の小児485 名について,初診時年齢,治療転帰を把握すべく調査を行った.治療転帰は,①治療開始に最適な時期まで成長観察(成長観察群),②直ちに治療開始(加療群),③管理を希望しない(セカンドオピニオン含む,希望無し群)に分類し,①の成長観察群と②の加療群では不正咬合の分類を行った.初診時年齢で最も多かったのは8 歳,次いで9 歳だった.治療転帰は,①成長観察群134 名(27.6%),②加療群107 名(22.1%), ③希望無し群244 名(50.3%)だった.①成長観察群で多かった不正咬合は上顎前突,叢生で,②加療群では反対咬合,次いで萌出障害,開咬だった.初診時年齢は乳歯列期ではなく永久歯への交換期が多く,咬合状態によっては初診時が処置を施すのに最適な時期であるとは限らないことが示された.しかし保護者が興味を持つこの時期は,将来のあるべき口腔機能の姿を伝える大切な時期とも考えられる.

  • 外口 晴久
    原稿種別: 原著
    2022 年 41 巻 3 号 p. 238-244
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    当院では将来コ・メディカル系の職業志望の高校生を対象に,2015 年より高校生職業体験プロジェクト「病院の仕事を知ろう」を開催している.医療技術系職種進学志望の高校生に対して当院設置の医療技術職の仕事を紹介し,将来の医療技術者育成に繋げるプロジェクトである.歯科技工士国家試験合格者が減少傾向にある現在,医療技術系に進みたい高校生にとって歯科技工士はどの様に認識されているのだろうか.2019 年実施イベントで近隣高校18 校・参加者162 人を対象に,希望職種及び選択理由等の事前アンケート調査ならびに他職種志望の高校生に対して実施した歯科技工士に関するアンケート調査を基に分析を試みた.結果,歯科技工士は最も不人気な職種であった.歯科医療界は医療技術系職種としての歯科技工士志望状況を知る必要がある.

症例報告
  • 澤井 佳代, 貞光 謙一郎, 清瀧 優也
    原稿種別: 症例報告
    2022 年 41 巻 3 号 p. 245-251
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    歯科衛生士業務のなかで歯周治療の基本原則は,病因因子であるプラーク除去であり,歯科衛生士の行う口腔衛生指導,スケーリングおよびスケーリング・ルートプレーニングは,歯周疾患の治療のみならず予防の面でも最も重要な項目として認められる.その中で,口腔衛生指導では問診によって知ることができる患者の性別や年代だけでなく,ライフスタイル,その方の癖や性格のほか,コミュニケーションを取るうちにわかってくる情報も多く存在する.その情報から患者のライフステージに合わせた指導が重要だと感じる.本症例はオーダーメイドの指導によって,良好なセルフケアを実現することができた.

技術報告
  • 柳沢 亮太, 河津 寛, 龍田 恒康
    原稿種別: 技術報告
    2022 年 41 巻 3 号 p. 252-256
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2023/11/03
    ジャーナル フリー

    間接法で製作されたクラウンは,口腔内試適時に過高となることが指摘されている.大山および遊亀は,この過高は咬合接触のない安静状態で採得された作業用模型上で製作されたクラウンと試適時には咬合接触させることで生じる生理的な歯の動揺が誤差の原因であると指摘し,咬合調整量の少ない補綴装置製作法を提案している.それを参考に,少数歯欠損症例における作業用模型調整法を検討した.印象採得の後,シリコーンバイト材を用いて咬合採得し,このシリコーンバイトの抜けを慎重に模型に印記し,バイト材を分割適合して生理的な歯の動揺を勘案して作業用模型を調整し,バイト材を介在させて緊密な嵌合が得られた状態で咬合器にマウントしてクラウン製作に用いる.このような作業用模型の調整法を試みた.その結果,試適時の調整量は顕著に減少したので,バイト材の抜けを印記する作業用模型調整法の有効性が確認できた.

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