抄録
無歯顎の下顎骨骨折患者は,関節突起骨折みまわれることが多く,術後に咬合や咀嚼運動に異常を認めることが多い. さらに高齢者では全身状態などの考慮すべき条件が多く,治療法の選択に苦慮することも少なくない.症例1 では,下顎 骨骨折を42 年前に認め,以後咬合不全を訴え,無歯顎となった後も咬合不全の自覚があった.その後認知症を併発した 患者に対して義歯リマウント法を用いて,咀嚼機能の回復をみたが,それに伴って認知機能についても改善傾向が認めら れた.症例2 では,腹部大動脈瘤破裂時,転倒受傷し下顎骨骨折を認め咬合偏位を伴った無歯顎患者に対して,非観血的 整復固定術を行い,術後3 カ月で義歯リマウント法を用い,早期に咀嚼機能を回復することができた.義歯リマウント法 は下顎骨骨折後といった咬合の偏位を伴う場合でも容易に咀嚼機能の回復を図ることができ,観血的処置も必要ないため 無歯顎の下顎骨骨折患者の治療方針を決める一助になると思われた.