日本顎咬合学会誌 咬み合わせの科学
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44 巻, 2 号
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原著
  • 山本 健蔵, 北田 直也, 原 大輔, 長藤 明博, 信野 和也, 貞光 謙一郎
    2025 年44 巻2 号 p. 149-154
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,色調ラインナップが3 種類の異なる明度から構成されるビューティセムベニアおよび,そのシステムのトライインペーストであるビューティセムトライインをレジンセメントの色調を決定する際に用いた場合のラミネートベニア審美修復への応用について評価することである.患者(女性)の中切歯のシリコーン印象を採取し,この印象から歯科充塡用コンポジットレジン(シェード:A1,A2,A3,A4)を用いてモデル支台歯を作製した.モデル支台歯に対してラミネートベニア(IPS e.max プレス, シェード:HT BLS)を作製し,明度が異なる3 種類の色調(L-Value, M-Value, H-Value)から構成されるトライインペースト(ビューティセムトライイン,松風)を用いて試適を行い,非接触型比色計であるDCCM-1(松風)を用いての測定(L*a*b*)を行った.L*a*b*値の中で明度を示すL* 値の測色結果について統計解析をすると,モデル支台歯の色調がA1 である場合は各色調のトライインペースト間で有意差が無かった.一方で,モデル支台歯の色調がA2,A3,A4 の場合はL-Value とM-Value 間での有意差は無いものの,L-Value およびM-Value に対して最も明度が高いH-Value は有意に高いL* 値を示した.また,全ての色調のモデル支台歯において,トライインペーストの明度が高くなるL-Value,M-Value,H-Value の順番にL* 値が高くなる傾向があった.3 種類のトライインペースト用いて,ラミネートベニアの試適を行ったところ,M-Value が最も隣在歯と色調の調和がとれていることが確認された.SpectroShade(SpectroShade USA)を用いて,試適を行った修復歯と隣在歯の歯面の測色を行ったところ,同等のL*a*b* 値を示すことが確認された.この結果を基に,レジンセメントのM-Value を用いてラミネートベニアの合着を行ったところ,審美的な修復を行うことができた.本研究の結果から,3 種類の異なる明度から構成されるレジンセメントおよびトライインペーストのシステムを使用することで審美修復が可能であることが示された.
  • 原 大輔, 山本 健蔵, 北田 直也, 長藤 明博, 信野 和也, 貞光 謙一郎
    2025 年44 巻2 号 p. 155-159
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は簡易的な試適材料として多用される水で補綴装置を試適した時の明度と,セメントシステムを適用時の明度を比較し,その明度関係を明らかにすることである.上顎左側切歯の審美的回復を主訴に来院された患者(女性)に対して,ラミネートベニアによる修復を選択した.ラミネートベニア(IPS e.max プレス MT BL3: Ivoclar Vivadent)を合着する前に,水および明度の異なる3 種(L-Value, M-Value, H-Value)のビューティーセムトライインペースト(松風)を用いて試適し,その明度を目視および測色計(SpectroShade, SpectoroShade USA)を用いて測定した.水を使って補綴装置を試適したところ,L * 値は70.9 であった.ビューティーセムトライインを用いて試適したときの明度は L-Value:72.3,M-Value:73.7,H-Value:74.0 であった.水とその他の材料間の色差Δ E*ab はL-Valeu:1.6,M-Value:3.0,H-Value:3.2 であった.観察者の 50% が認識できる色の違いである知覚閾値はΔ E*ab=1.80 に相当し,観察者の 50% が許容できる色の違いである許容閾値はE*ab=3.46 であるので,これらの閾値と比較すると水とL-Value の色差は知覚閾値内であり色の違いを認識することができない.一方,水とM-Value,H-Value は許容閾値内ではあるが,知覚閾値以上であるため色の違いを認識できる.隣在歯との比較においては,中切歯,犬歯ともにb* が高く相違しているが,ビューティーセムトライイン L-Value を用いて修復した歯のL* が近似している.隣在歯との色調が調和し,患者の希望に沿ったビューティーセムベニア L-Value を用いて装着した結果,患者は審美的修復に満足していただけた.本セメントシステムにおいては,水による試適と,L-Value での装着時の明度が近似するため,水の試適において隣在歯とのバランスが良好であれば,L-Value を選択するべきであると結論付けられた.
  • 義歯の維持安定と咬合の関連について
    永田 一樹, 佐藤 勝史, 林 宏暁, 黒江 敏史, 二藤部 ゆみ, 神部 毅, 安達 隆帆, 吾妻 聡, 後藤 光成, 坂本 伸寬, 笹原 ...
    原稿種別: 原著
    2025 年44 巻2 号 p. 160-166
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    上下全部床義歯装着者の満足度には顎間関係が大きく影響し,その顎間関係には下顎の解剖学的条件と義歯の維持安定が重要 であると言われている.下顎全部床義歯の製作に吸着印象法を用いることで,顎堤条件が悪い場合でも維持安定が得られ,上下 全部床義歯装着患者の口腔関連QOL が良好であったと報告されているが,咬合への影響は不明である.そこで本研究では,吸 着印象法により製作された下顎全部床義歯の維持安定と咬合の関連性を調査した.本研究は,一般開業歯科医院11 施設で行った. 義歯装着後1カ月以上を経過し,2021 年7 月から2022 年6 月までに義歯調整やメインテナンスに来院した66 名(平均77.2 歳 ± 10.9)の上下無歯顎患者を被験者とし,オーバーデンチャー及びシングルデンチャー装着者は除外した.評価項目として, 咬合スコアとKapur の維持安定スコアを用いた.咬合スコアの平均値は4.89 ± 4.54 点であった.下顎の顎堤状態が悪いほど 咬合スコアが高くなる傾向が見られた.維持安定スコアの平均値は上顎で4.77 ± 0.63,下顎で3.94 ± 1.38 であった.術者に よる義歯の維持の評価である維持安定スコアと患者報告型アウトカムである咬合スコアの結果から,下顎全部床義歯製作に吸着 印象法を用いることで,義歯の維持安定の向上だけでなく,咬合に関しても良好な結果となり患者のQOL 向上に寄与できる可 能性が示唆された.
症例報告
  • 髙井 智之, 黒岩 昭弘
    2025 年44 巻2 号 p. 167-176
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    【目的】全部床義歯において義歯の安定は最重要な項目である.特に条件の悪い下顎について人工歯の排列位置の検討を行ったので報告する.【治療方法】教科書的に歯槽頂間線の法則があるが,この法則では義歯の安定を得ることはできない.今回,下顎前歯部はリップサポートを参考に(部分的フレンジテクニック),臼歯部はパウンドラインも考慮に入れながら,歯槽頂に排列した.その後,ロウ義歯にて安定を確認してから義歯を製作した.【結果】装着後,どの症例でも数回の調整を必要とするが,本法を用いると比較的容易に義歯の安定が得られ,良好な結果が得られた.【考察】本法により容易に適切なデンチャースペースを患者ごとに設定することが可能となり,義歯の安定をもたらしたと考えられる.
  • 石幡 一樹
    2025 年44 巻2 号 p. 177-183
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    症例の概要:72 歳,女性.右下の大臼歯および左上大臼歯の喪失後5年間放置,開閉口時に左右顎関節部疼痛および雑音があり,嚙めないことを主訴に来院した.また,重度の咬耗のために審美障害が認められた.咬耗による咬合高径の低下が認められたため,咬合再構成後,固定性の補綴装置を装着した.考察:中心位採得後に治療用義歯とオーバーレイプロビジョナルレストレーションを用いて垂直的・水平的顎間関係を決定した.プロビジョナルレストレーションを用いて機能および審美を確認したことで,高い口腔関連QOL が得られた.結論:咬合高径の低下に対して,オーバーレイプロビジョナルレストレーションおよび治療用義歯を用いて咬合高径の決定を適切に行うことで,患者の高い満足度が得られた.
  • 三島 健史
    2025 年44 巻2 号 p. 184-190
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    無歯顎の下顎骨骨折患者は,関節突起骨折みまわれることが多く,術後に咬合や咀嚼運動に異常を認めることが多い. さらに高齢者では全身状態などの考慮すべき条件が多く,治療法の選択に苦慮することも少なくない.症例1 では,下顎 骨骨折を42 年前に認め,以後咬合不全を訴え,無歯顎となった後も咬合不全の自覚があった.その後認知症を併発した 患者に対して義歯リマウント法を用いて,咀嚼機能の回復をみたが,それに伴って認知機能についても改善傾向が認めら れた.症例2 では,腹部大動脈瘤破裂時,転倒受傷し下顎骨骨折を認め咬合偏位を伴った無歯顎患者に対して,非観血的 整復固定術を行い,術後3 カ月で義歯リマウント法を用い,早期に咀嚼機能を回復することができた.義歯リマウント法 は下顎骨骨折後といった咬合の偏位を伴う場合でも容易に咀嚼機能の回復を図ることができ,観血的処置も必要ないため 無歯顎の下顎骨骨折患者の治療方針を決める一助になると思われた.
特別寄稿
  • 中程度以上の歯周疾患歯列に対する欠損補綴の考え方
    野谷 健治
    2025 年44 巻2 号 p. 210-
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
  • 歯周病患者の欠損補綴治療: 治療オプションとしてのコーヌスクローネ義歯
    五十嵐 順正
    2025 年44 巻2 号 p. 201-209
    発行日: 2025/01/26
    公開日: 2025/06/05
    ジャーナル フリー
    コーヌスクローネ義歯の特長:咬合接触回復の正確性・永続性に優れ,中間欠損では固定性ブリッジと同様,遊離端欠 損でもリジッド・サポートに由来した義歯部の動揺を最小にできることからブリッジに近似する.テレスコープ二重冠構 造の特徴として支台歯の歯周炎症への影響が僅少であり,プラークコントロールの観点からも,最適切な設計と言える.コー ヌスクローネ義歯の問題点:理論的・技術的バックグラウンドが不可欠で,Cr & Br のスキルとRPD の理論,とくに遊 離端欠損ではリジッド・サポートの理解と実践が不可欠である.術者には臨床の各治療過程で精度を保てる臨床練度が必 要である.歯科技工士には義歯設計,製作についての理解,技術が必要である.以下,可撤ブリッジの症例について示す.
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