日本呼吸器外科学会雑誌
Online ISSN : 1881-4158
Print ISSN : 0919-0945
ISSN-L : 0919-0945
症例
胸腔鏡下左肺上葉切除術後に多臓器血栓塞栓症をきたした1例
渡部 和玄吉岡 孝房安樂 真樹
著者情報
ジャーナル フリー

2021 年 35 巻 7 号 p. 763-767

詳細
抄録

症例は71歳女性.近医にてCTで左肺門部に3 cm大の腫瘤陰影を指摘され,当科紹介となった.全身精査の結果,原発性肺癌疑いcT2aN0M0 Stage IBと診断し,胸腔鏡下左肺上葉切除およびリンパ節郭清術を施行した.病理診断は肺定型カルチノイド,pT1cN0M0 StageIA3であった.術直後より心房細動を認めたため抗不整脈薬の投与と抗凝固療法を開始し,心房細動は速やかに消失した.術後12日目の夜間に患者が突然の腹痛を訴えたため緊急胸腹部造影CTを撮像したところ,腎梗塞,脾梗塞,および腸管膜動脈血栓症の所見を認め,腹痛の原因と考えられた.さらに左上肺静脈切離断端を基部として左房内に突出する壁在血栓の所見も認めた.発症翌日に施行した頭部MRIでは左小脳梗塞の所見を認めた.症状と血液検査所見から保存的治療が妥当と判断し,抗凝固療法の継続で臨床症状の改善と梗塞巣の縮小を認めた.本症例は抗凝固療法開始下で多発血栓塞栓症を発症しており,術式(左肺上葉切除),心房細動発症など心房内血栓形成のリスク因子が重なった場合,術後早期のスクリーニング造影CTや,速やかな抗凝固療法を検討する必要があると考えられた.

著者関連情報
© 2021 特定非営利活動法人 日本呼吸器外科学会
前の記事 次の記事
feedback
Top