2021 年 35 巻 7 号 p. 774-778
症例は73歳男性.PET-CTで左肺上葉にFDGの異常集積を伴う結節を2ヵ所指摘された.全身麻酔下,右側臥位で固定し,胸腔鏡補助下左上葉切除術,ND2a-1リンパ節郭清を施行した.2個の腫瘍はともに低分化腺癌で,pT1c(2)N0M0 stage IA3であった.手術翌日より左三角筋の脱力による左上肢の挙上困難を訴え,腋窩神経麻痺と診断,原因として四辺形間隙症候群が疑われたため,理学療法を開始した.術後1ヵ月目より徐々に左上肢の挙上が可能となり,術後2ヵ月目には日常生活に支障ない程度まで回復,間もなく筋力の回復もみられた.術後5年現在,無再発で左上肢の不自由もなく外来通院にて経過観察中である.胸部手術における合併症としての四辺形間隙症候群は稀であるが,症例を蓄積するとともに腋窩神経とその周辺の解剖構造を理解し,同部への圧迫や過伸展のかからない肢位作りを定型化していくことが重要である.