1997 年 11 巻 6 号 p. 704-709
胸腺腫は正常胸腺にみられる分化途中の未熟Tリンパ球を豊富に含んでいる.胸腺上皮細胞はTリンパ球の分化と選択に重要な役割を果たしていることから, 胸腺腫内の未熟Tリンパ球は腫瘍内で分化している可能性がある.この仮説の傍証を得るために, われわれは肺転移巣内のリンパ球を解析しその成熟度を調べた.CD4-CD8- (DN) cellは3.6%, CD4+CD8+ (DP) cellは 75.2%, CD4+CD8- (CD4SP) cellは9.7%, CD4-CD8+ (CD8SP) cell は11.5% であった.CD1+cell は85.9%であった.CD8SP cellはCD3, TcRαβ, CD69を発現していたが, CD4SP cellの大部分はこれらの表面抗原を発現していない DN cellからDPce11への移行過程のリソパ球であった.これらの結果から, 未熟なTリンパ球が転移巣内にも多数存在し, 胸腺腫の腫瘍細胞すなわち胸腺上皮細胞がTリンパ球の教育に関し不完全ではあるが機能を有している可能性があると考えられた.