抄録
本稿の目的は「学びの共同体」の概念を、特に「学習する組織」との比較において明らかにすることである。「学びの共同体」は知的社会における自律的学校経営システムとしてアングロ・サクソン諸国の研究者に注目されている。しかしながら、その概念については、学者によって意味が異なり、類似概念である「学習する組織」と同じように用いられることもある。そこで、本稿では、Sergiovanniが提唱する「比喩としての共同体」と「比喩としての組織」の概念を用いて、8つの研究(内3つは「学習する組織」、5つは「学びの共同体」)における「学びの共同体」と「学習する組織」の意味を分析し、比較できることを示す。まず、「学びの共同体」に関する5つの研究と「学習する組織」に関する3つの研究において、これらの概念の目的および特徴を、Sergiovanniの10の基準およびMitchell and Sackneyの提示する3つの基準に基づいて分析する。次に、Sergiovanniが提唱する「比喩としての共同体」と「比喩としての組織」を対極とする線分上に位置づけることによって、各研究における「学びの共同体」と「学習する組織」の意味を注意深く分析でき、かつ、比較可能となる。
そして、「比喩としての共同体」として「学びの共同体」を位置づけることは、民間経営から借用した経営システムとは異なる学校独自の経営システム構築の可能性につながることを指摘する。