2022 年 16 巻 p. 145-159
学術的文章で専門分野を問わず使用頻度が高い学術共通語彙(松下,2011a)の理解度を測定するためのテストを開発し,小学4年生から中学3年生までの児童・生徒および大学生の計4,022名に実施した。学年の上昇に連れて理解度は上がるが,各学年の標準偏差はすべての学年で隣接学年との平均の差を上回り,小学校段階から同一学年内に大きな理解度の差がある。この理解度の差は大学まで続き,今回の調査では小中学生程度の理解に留まる大学生が確認された。また,大学間の差も見られ,理解度の分布が多様な大学と高水準で均質な大学に分かれた。大学生の理解度が低い語彙には,1)高頻度の基本語彙とみなされ正確に理解しているかを問われずにきた,2)抽象度が高い,3)文系学生にとっての理系語彙であるという特徴が見られた。学術共通語彙の頻度順位とテスト正答率との関係は直線的なものではなく,単にインプットを増量するだけでは教育的効果は大きくないことが推測される。