日本の薬学教育において,基礎科学科目と臨床との繋がりを意識づける分野横断型教育にチーム基盤型学習(TBL)を導入した事例はごく限られている。本研究では,初年次の分野横断型教育におけるTBL方略の有用性を明らかにすることを目的とした。コース終了後にアンケート調査を行い,探索的因子分析と階層型クラスター分析により3群を分類した。A群は,グループワークが他の群よりも苦手である群,B群は,自己学習が苦手である群,C群はTBL方略に対して有用性を強く感じた群となった。薬学への興味向上および授業に対する総合評価に対する各群の回答分布では,C群がA,B群に比べて高い評価を示した。本研究結果は,初年次分野横断型教育において,臨床に繋がる課題が設定されたTBL学習が,受講者の学習内容の理解と薬学への興味の促進に繋がることを示した。その一方で,個人で行う事前学習への負担やグループワークへの消極性が学習効果を妨げる可能性も示唆された。
初等中等教育でのプログラミング必修化に伴い,大学教育においては,今後多様なプログラミング学修の背景を持つ学生を対象としたプログラミング授業が求められる。本実践では,医療系大学の1年生に対して,デザイン思考を取り入れながら,学生主導でロボットを活用したプログラミング授業を設計し,設計した授業を実践した。デザイン思考では,授業を受ける1年生の深いニーズや課題を理解するプロセスを踏まえて,教員と教員の担当するゼミナールの学生でディスカッションを行いながら,学生が主導となる形で2018年度から2022年度まで反復的・継続的に授業改善を行った。設計した授業を受講した1年生の学生の授業アンケートの結果から,授業資料の改善や幅広い分野への学びの意欲を引き出すことに繋がることが示唆された。
医学部の免疫学の講義において,コマの最後の10分程度をまとめの時間として録画し,LMSを通じてオンデマンドで配信した。その視聴回数は総じて試験の合否と相関しており,一部の試験区分では統計的に有意であった。相関に外れて追試問に回った者とのやり取りからは,日本語リテラシーの不足を窺わせるケースも多く,動画の内容把握がスムーズでないことが推察された。単位認定後のアンケートの記述をテキストマイニングで解析すると,再試験までの合格者は「確認」「整理」など,自律的な学びを示唆する語が多いのに対し,これらは追試問群では出現しない。対照的に「聞き逃し」「気づく」「本質」などメタ認知を用いて深い学びに到達した可能性を暗示する語が出現する。アンケート原文には「学びの本質を考え直さないと」など自らの日本語リテラシーを直視するような表現も多く,キーワードの羅列,すなわち表面構造(Kintz)でない,状況モデルの把握を目指したことが想定された。
大学入学後の学習に支障をきたさないようにとの配慮から,多くの大学で入学前リメディアル教育プログラムが実施されている。本学でも入学直後の対面で行うリメディアル教育プログラムとともに,特に早期に決まった入学予定者に対し,高校で学んだ事柄の総復習のための問題演習などを中心に組んだプログラムを実施してきた。合わせて勉強への動機づけを強化するプログラムも実施してきたが,取り組み姿勢の差が大きくなってきていた。そこで,入学前リメディアル教育プログラムへの取組姿勢が,入学後の成績にどのような影響が及んでいるかを調べた。その結果,入学後の成績に反映されていたのは,入学前の学力ではなく,積極的に学ぶという取り組み姿勢であった。その効果は,入学前リメディアル教育プログラムで取り組む科目に依存していなかった。
COVID-19の影響を受けて,薬学教育ではオンライン教育を余儀なくされた。コロナ禍の日本の薬学教育におけるオンライン教育の実践内容が報告されているが,実施状況を網羅的に集積した例はない。本研究では,2020年から行われた日本のオンライン教育の現状を明らかとするために,カテゴリー生成のための予備的検討とスコーピングレビューを行った。各報告を質的分析した結果,大カテゴリーとして,講義,実習,演習,評価,卒業研究,個別指導,初年次教育,その他の8個の領域に分類した。このうち,講義や演習といった教育の主軸であり,即時にオンラインへの転換が可能となった領域の報告が多かった。その他の領域は報告数が少ないことから領域による報告格差があり,出版バイアスが生じている可能性のあることが明らかとなった。教育分野では情報共有の意義は大きく,今後の薬学教育の発展のために積極的に報告を行う必要がある。
本研究では,私立大学薬学部1年生の物理化学コースの正課外チュータリング補講を担当した学生チューターの知識習得度と意識に与える影響を評価することを目的とした。学生チューターは,本学薬学部2,3年生から公募し,15名(男性7名,女性8名)を採用した。薬学部1年生の物理化学の正規授業内での小テストの成績から対象者に,学生チューターによる補講を実施した。学生チューターの学修成果を,3回のテストの得点及びアンケート結果より評価した。試験の得点率は,事前(63%)に比べて,中間(82%)および事後(78%)で得点率が上昇した。さらに,アンケート結果より,62%の学生チューターが,携わった内容に対する理解を強く実感し,学生チューターの76%は,担当受講生の内容理解度および取り組み姿勢が向上したと自覚していた。以上のことから,チューター指導により,チューター自身の学習効果が向上するだけでなく担当受講生の理解と学習姿勢の向上をもたらす可能性があることを示した。
筆者が担当をする専門科目である「老年期作業療法学(各論)」ではPBLによる能動的学習を取り入れている。本科目は,高齢期作業療法の基礎を学ぶ総論と臨床実習を繋げる科目として位置づけられており,臨床実習においてより主体的に学習をする姿勢を培うことも目的となる。本研究においては「老年期作業療法学(各論)」でのPBLの効果と課題を把握することを目的として,受講者によるリフレクションペーパーの分析を行った。その結果,学生は本授業から〈主体的・積極的参加に対する満足〉〈協力的行動に対する満足〉〈課題遂行に対する満足〉を得ており,より実践的な知識の統合化に向けた契機となっていた。
異なる種類の文章を書くとき,人はどのように内容や表現を決定するか。特定の種類の文章作成を指導する実践は多いが,異なる種類の文章にどう取り組むのが有効かを追究する実践や研究は日本では少ない。本研究では,大学院生10人が,在学中に異なる種類の学術的文章を,卒業後に社会で求められる文章を,どのように書いたかを3年に亘り詳細に聴き取った。修正版グラウンデッド・セオリー手法で分析し次の点が明らかになった。大学院生は,相手の立場や相手が読む目的,自分の立ち場や役割を意識して内容と表現を決めていた。また,文章の種類による特徴を自ら抽出したり,文章を磨くための環境作りをしたりしていた。もともと持っていた文章観も文章作成を既定していた。こうした点から,文章作成授業では,文章の相手と自分の立ち位置を詳細に分析させる指導が必須である。メタ認知は,文章作成の過程や終盤で,文章を評価する際に意識させるのが有効である。
2024年9月2日から4日にかけて実践女子大学渋谷キャンパスで開催された日本リメディアル教育学会第19回全国大会では,「多様性×AI×キャリア教育」をテーマに掲げ,21世紀の教育における課題と機会について議論が行われた。本報告では,基調講演,一般発表,企業展示,そして優秀賞受賞者の論文を中心に,大会の成果と今後の展望についてまとめる。大会を通じて,多様性と包摂性を尊重しつつ,AI技術を活用し,キャリア教育との統合を図る教育の新たな方向性が示された。
2024年9月2日に,日本リメディアル教育学会(JADE)英語部会企画において参加型のワークショップを開催した。本部会企画では,「日本語と英語を連携させた言語教育による言語能力の育成」というタイトルのもと,参加者全員が,大学言語教育において,日本語と英語の連携の意義や可能性について議論することを目的とした。まず,現行学習指導要領における国語科(日本語)と外国語科(英語)の連携に関する記述内容をもとに,日本語と英語の連携の理念や日本語と英語の連携の歴史的背景についての簡単な説明がなされた。そして,母語習得や第二言語習得の研究の知見をもとに,母語としての日本語と第二言語(外国語)としての英語の連携に関する理論的背景と,母語の果たす役割についての説明がなされた。そのあと,本大会の主催校における日本語と英語のライティング教育の連携実践の報告がなされた。本ワークショップでは,日本語と英語を連携させた言語教育の意義と歴史的背景,理論的背景をふまえ,最後に参加型のワークショップにおいては,日本語と英語を連携させた言語教育による言語能力の育成について意見交換をおこなった。
現在,大学におけるライティング教育は多様化している。これは,多様な学生,異なるニーズ,さまざまな背景を持つ教員などに加え,AIの普及など時代的な状況がより複雑にしていると考えられる。日本語部会では,第19回全国大会企画として,大学ライティングの多様性をテーマにラウンドテーブルを行った。そこでは,3名の話題提供者が各大学のライティング教育実践において,何をゴールに定め,それに向けてどのような授業を展開しているのか,さらには,専門科目とどのようにして連携を図っているのかを報告した。また,それらの報告を踏まえたうえで,会場参加者との積極的な意見交換が行われた。大学ライティング教育の多様化が進む中で,大学生にとって必要な「書く力」とは何か。そして,私たちは何をどのように教えるべきかという問いを共有した。
日本リメディアル教育学会第19回全国大会において, 2024年9月4日 (水) 12:30~14:00, 第4会場 (実践女子大502教室) で開催された, 医療系/理数系/ラーニングセンター3部会合同ラウンドテーブルの内容を報告する。
日本リメディアル教育学会の会員の携わる学習支援は,授業での学習支援に留まらず多岐にわたっている。学びの継続をやめてしまう学生に対しては,授業での学習支援だけでは対応できない現状がある。授業運営のみではなく,学生の人間関係の問題を注視し,学生の学びの姿勢の改善を目指し,学生の学びを継続させる学習支援について,参加者の声を集めた。学生の現状や,全国大会での発表や学会誌の論文といった形では発信されていない多くの取組があることを参加者で共有した。参加者から報告された学習支援の具体策は,多くの会員にとって,学習支援の視野を拡げるものとなった。
日本リメディアル教育学会 (JADE) の全国大会において,ICT活用教育部会は,口頭発表の枠とは別に,ICT活用に関連する取り組みについての情報共有とディスカッションを行う企画を2018年以降開催してきた。2024年は,9月2日から4日の3日間にわたり実践女子大学渋谷キャンパスを会場として開催された「日本リメディアル教育学会第19回全国大会」において,ICT活用教育部会企画としてラウンドテーブル『遠隔授業のWithコロナ・Afterコロナ』を開催した。この企画では,コロナ禍から現在までの遠隔授業の環境や設計の変遷に関する実践報告をもとに今後の遠隔授業についてディスカッションする。ここでは,企画テーマの決定から発表者の募集に始まり,講師の確定とディスカッションを含めたタイムテーブルの設計など開催までの活動と,当日の部会企画実施について述べる。最後に,今後のICT活用教育部会の活動について述べる。
聖徳学園の「STEAM教育」 (文系・理系といった枠にとらわれず,各教科等の学びを基盤としつつ,様々な情報を活用しながらそれを統合し,課題の発見・解決や社会的な価値の創造に結び付けていく教育) の実践例の紹介や,参加者が実際に体験することができるワークショップ。聖徳学園では,創造的なアウトプットを前提とした主体的なインプットが可能なプロジェクトを展開しており,(その気になれば) 自分で学ぶことができる,すなわち,いつまでも学び続けられる生徒を育てることを目標にしている。Clipsでムービー作り,Keynoteを使ったムービー作りなど,授業実践の具体例紹介にとどまらず,問題提起し,参加者に考えさせる講演。他にKahoot!やQuizletを利用した効率的なインプット,Google Workspace for Education,板書(Keynote)のアーカイブ,Clipsなどを利用した授業運営など,様々な授業の可能性を考えさせる。
人工知能の実社会への影響が益々顕著となり,激動の時代とも言える現代社会において,本部会企画の趣旨は,激しい変化の中でも不変と言える,いわば「不易の能力」として「学習言語」を捉えていくことであった。約30名の参加者をお迎えし,司会,講演者,そして話題提供者らが「学習言語」を各々の専門的見地から語っていった。それぞれの発表後,特に小山義徳氏の「問う力」についての講演後には,質問やコメント等の発言を多くの参加者からいただくことができ,終始盛況に企画を進めることができた。改めて参加いただいた皆様へ感謝申し上げる。当部会では,不易の能力としての学習言語能力の育成について今後益々探究を図っていく所存である。なお,報告書の内容は,当部会部会長の志手和行が予稿集の内容,及び部会企画での実践内容を取りまとめ,個人的な視点からまとめたものである。文責は全て志手が負う。
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