抄録
ドイツでは19世紀に、行政領域のほかに、学術領域や美術史料研究領域で独立したアーカイヴや研究図書館が多数成立した。ヴァイマルのアンナ・アマーリア大公妃図書館やゲーテ・アーカイヴはその代表例で、今日もなお文学研究や美術史研究のための研究アーカイヴとして知られる。アーカイヴ学は、「来歴(プロヴィナンス)原則」を歴史研究の発見法的方法とみなし、近代的なアート・アーカイヴの発展に大きな貢献をもたらした。この「来歴原則」は、史料の件名標目分類に役立つ「属性(プロパティ)原則」とは対照的に、史料の持つ力動的で継時的な成立過程を明らかにしてくれる。ゲーテの形態学と「原植物」の直観は、いわば「来歴原則」の基礎づけの役目も果たした。本研究は19世紀のアーカイヴ学の成立を支えたドイツの発見法的・解釈学的な素地を明らかにする試みである。