2017 年 17 巻 4 号 p. 4_140-4_169
2011年の東日本大震災では,津波による甚大な人的被害が生じた.その要因として,心理的バイアス等の影響により,多くの人が揺れを感じてからも自発的には避難を開始せず,他者の動きに追従することなどにより避難遅れが生じたこと,および安全と考えられていた避難場所にも一部に津波が襲来し避難したにも関わらず被災したことなどが挙げられる.そのような教訓を踏まえながら,ICT(情報通信技術)が進歩する中で,その在り方に関する試験的研究が社会的に有用と考える.本研究は,人間や端末の相互作用を考慮できるマルチ・エージェントモデルを用いて,東日本大震災の避難を分析するとともに,対策のための新たなICTの在り方を検討,提案することを目的とする.追従等の行動特性をモデル化し,震災のシミュレーションと複数の対策スタディを行った.その結果,住民の一部に安全な避難先情報を端末によって与え,その端末から避難経路を投影し,端末所有者,追従者も含めて人流を創発し,安全への道筋を共創することが,追従という人間の本能的行動とICT端末の双方の特性を活かし合う一つの有効な対策案と考える.