1945年1月13日に発生した三河地震(M6.8)直後に東京大学地震研究所により行われたアンケート調査資料を再検討し,詳細な震度分布を推定した.再検討では,震度が評価できない25回答を除いた149地点での回答を使用し,各地点における被害や人々の体感などの項目に対応する複数の震度報告値から,各地の震度代表値を算出した.その際,アンケートの震度報告値が大きくなる場合に顕著となる平均震度の頭打ちの問題が回避され,かつ中央気象台1)による同地震の震度分布との対応が最も良い,震度報告値の上位3個の平均震度を震度代表値として採用した.震度分布について以下の特徴が明らかとなった;(1)三河地震の震源域に位置する愛知県形原町では,IK 10~11という最大震度であった,(2)三河地震の震源域から愛知県北西部,岐阜県南西部にかけてIK 6~9という大きな震度が推定され,濃尾平野による揺れの増幅の可能性がある,(3)静岡県西部ではIK 6~7の比較的大きな震度であったが,三重県の大部分の地域の震度は中央気象台1)の震度より小さかった,(4)滋賀県と福井県においては,1944年東南海地震でIK 7~9の大きな震度が推定されたが,三河地震による震度はIK 3~7程度と小さかった.(5)アンケート調査の回答には,中井・武村2)により気象庁震度6強~7の震度が推定された深刻な被害地域からのものがないことから,アンケート調査自体の実施が困難であっと推察された.(6)約1ヶ月前の1944年東南海地震による強い揺れの経験や,三河地震の発生が東南海地震の余震活動がまだ活発な時期の真夜中であったことから,アンケート回答者が地震時の状況を正確に把握することが困難であり,岐阜県,三重県,静岡県のアンケート震度が過小に評価された可能性がある.