日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
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既存超高層建築のリスク評価手法を用いた制振補強による費用対効果に関する研究
中西 真子久田 嘉章山下 哲郎
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2019 年 19 巻 5 号 p. 5_440-5_462

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抄録

近年,超高層建築には従来のL1,L2地震動に加え,最大級地震動を想定し,余裕度を見込んだL3地震動を考慮した耐震性能の評価が求められている.また,米国では超高層建築などの重要施設に関して,リスク評価手法とレジリエンスベースドデザインの考えを取り入れ,安全性能だけでなく経済・復旧性能の面から優良な建物の耐震性能を総合的に評価する制度が始まっている.本研究では,東京都心部に実在する既存超高層建築を対象にL1~L3地震による設計クライテリアを設定し,現有の非制振の建物と,ダンパーを付加した補強案による建物の地震応答解析を実施し,比較検討を行った.まず補強による地震応答値の低減効果を確率的に評価し,そのリスク評価手法による費用対効果を検討した.その結果,損傷費用の期待値は大きく低減し,さらに制振化する費用を含めた総価格でのメリットがあることを確認した.次に地震発生確率を考慮したライフサイクルコスト(LCC)による評価を行ったが,L1~L3地震の発生確率を考慮した工学的モデルと、各種地震の発生確率を評価した地震学的モデルとでは評価結果が大きく異なった.すなわち,前者では約80年間以上の供用期間から制振化の費用対効果が現れるが、後者では僅か5~10年で効果が現れる結果となった.これは東京都心部での地震発生確率が後者で非常に高く評価されているためである.逆に確率が低い地域では制振化の効果が現れないことも確認した.地震学の最新知見を導入したリスク評価手法による耐震設計や優良建物の評価認証は世界的な潮流であり,今後は我が国でも理学・工学分野が融合したコンセンサスに基づく地震の確率評価モデルや建物の性能評価法の整備が重要になると考えられる.

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© 2019 公益社団法人 日本地震工学会
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