日本地震工学会論文集
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報告
2016年熊本地震の地表地震断層の近傍における建物の被害調査と活断層対策
久田 嘉章田中 信也金田 惇平寺本 彩乃中村 航村上 正浩鱒沢 曜境 茂樹仲野 健一森 清隆木本 幸一郎
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2020 年 20 巻 2 号 p. 2_90-2_132

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抄録

2016年4月16日の熊本地震では,布田川・日奈久断層に加えて南阿蘇地域に出現した断層帯に沿って長さ約34 km,最大で約2 mの地表地震断層が出現した.著者らは地震後の2年間計6回,主要な地表地震断層の直上を中心として,断層から100 m程度以内のごく近傍の地域で建物の悉皆調査を実施し,さらにその後の現存・解体の状況を調査した.地表地震断層の出現位置は,既存の活断層地図とは概ね整合しているが,建築的なスケールでは大きく外れる場合があった.南阿蘇地域を除くと,地表地震断層ごく近傍の地震動は木造建物の全壊率から最大でも震度6弱程度以下と推定され,全壊・倒壊などの大被害の大半は地表地震断層の直上の断層変位で生じていた.盛土地盤がある場合は断層変位が地盤内で分散・吸収され,地表に現れる地盤変位を低減させる効果があることを確認した.一方,南阿蘇地域では非常に高い全壊・倒壊率より震度7相当の強い揺れが発生したと考えられ,断層変位だけでなく,強い揺れによる甚大な被害が発生した.倒壊・傾斜した建物の7割以上は断層走向の直交方向に対応しており,指向性パルスが発生した可能性が示唆された.いずれの地域も耐震性に劣る非常に古い建物に集中しており,2000年の耐震基準以降の新しい建物はRC造基礎等の高い耐震性により地表地震断層の直上でも軽微な被害であった.一方,古い木造建築は,断層変位に対して躯体は大きく変形するが,倒壊に至らないケースも見られた.被災建物の追跡調査により,被害程度が大きいほど解体される割合も高くなるが,半壊以下の被害でも解体される事例が多く確認された.熊本地震では半壊以上から公費解体が行われるなど,修復よりも解体を誘導する政策が行われたことも一因と考えられる.

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