日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
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論文
南海トラフの巨大地震による津波痕跡を再現する特性化波源断層モデル
-確率論的津波ハザード評価に向けて-
鬼頭 直平田 賢治前田 宜浩土肥 裕史藤原 広行松山 尚典
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2021 年 21 巻 1 号 p. 1_82-1_105

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抄録

南海トラフでは,過去約300年間で1946年昭和南海地震,1944年昭和東南海地震,1854年安政南海地震,1854年安政東海地震,1707年宝永地震の5つのプレート間巨大地震が発生している.本研究では,これらの巨大地震により生じた津波痕跡高を地震調査委員会(2017)の津波レシピに基づいた「特性化波源断層モデル」を用いて再現することを試みた.すべり不均質を2段階のすべり領域で表現した多数の特性化波源断層モデル群を用いて津波伝播遡上計算を実施し,各地震の津波痕跡高と計算した海岸での最大水位(T.P.)とを比較した.再現性の評価では,目視による確認に加え,相田(1978)の幾何平均 K と幾何標準偏差 κ および残差二乗和を算出し,再現性の指標とした.その結果,1854年安政南海地震,1854年安政東海地震,1707年宝永地震の3つの地震については,地震調査委員会の長期評価(2013)と不整合のない範囲で波源断層モデルの平均すべり量の調整が必要となったものの,各地震の津波痕跡高を良好に説明する特性化波源断層を求めることができた.これは,津波レシピに基づく特性化プロセスの妥当性を示唆するとともに,多数の特性化波源断層モデル群を考慮する確率論的津波ハザード評価の有効性を示す1つの根拠となる可能性がある.

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© 2021 公益社団法人 日本地震工学会
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