日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
21 巻, 1 号
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論文
  • 杉野 英治, 阿部 雄太
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_1-1_24
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    原子力発電所の津波リスク評価手法の高度化に資するため,まず,確率論的津波ハザード解析と津波フラジリティ解析の有機的連携に必要となる津波模擬波形に求められる要件を整理した.次に,2011年東北地方太平洋沖地震津波の観測波形を対象に位相・振幅スペクトルのモデル化に向けた基礎的検討を行った.その結果,群遅延時間及び振幅スペクトルの周期帯ごとの平均値が各モデル化に有効であることを確認した.そして,これらの要件及び基礎的検討結果を踏まえて,統計的手法に基づく津波模擬波形の作成方法を提案した.

  • 鹿嶋 俊英, 小山 信, 中川 博人
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_25-1_45
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    SMAC-M型強震計は,サーボ式加速度計を有し,記録媒体にコンパクトカセットテープを採用したアナログ強震計で,1970年代後半から90年代にかけて建築研究所の強震観測の主力機種であった.SMAC-M型強震計は,1978年宮城県沖地震の東北大学の強震記録をはじめとして,多くの貴重な強震記録を採取してきた.今般,建築研究所で保管していたSMAC-M型強震計の多くの記録を,統一的な手法によって再数値化した.本論は,1978年宮城県沖地震の東北大学の強震記録を例に,再数値化の手法について述べている.この時,同一の建物内の複数の強震計の記録の時間軸の間にずれが生じることがある.そこで,そのような時間軸のずれの検出方法と解消方法を提案し,その有用性を検証した.

  • ―2016年熊本地震における被害調査結果を例としてー
    栗林 健太郎, 原 忠, 坂部 晃子, 黒田 修一
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_46-1_63
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    2016年4月16日に発生した熊本地震(Mj = 7.3)では,2度の強い揺れと液状化により震源域近傍の土木・建築構造物が被災した.益城町近傍の道路盛土は,広域な範囲で地震後に背面盛土が沈下し橋台背面に段差が生じたことで,地震後の交通に大きな支障をきたした.本研究では,橋台背面の段差被害が顕著にみられた益城町内を流れる木山川を対象に,被害の実態と要因を調べるため,現地調査と数値解析を行った.その結果,調査地点で生じた道路盛土の沈下は,盛土直下にある砂質地盤の液状化と,過剰間隙水圧の消散における盛土の圧密沈下が主要因であることが明らかになった.また,道路盛土縦断方向における測量結果から,橋台背面に発生する段差は橋台付近の背面盛土の沈下に起因するが,盛土区間全体で見ると沈下量が急変する要因が無ければ道路機能への影響は小さいことも分かった.一連の解析結果から,レベル2地震時の道路盛土の耐震設計における課題を整理し,液状化地盤上に敷設する道路盛土の縦断方向の沈下量を推定するための評価法の提案を試み,その適用性を被災例との比較から検証した.

  • 吉田 望, 安達 健司
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_65-1_81
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    地盤の地震応答解析に用いる複素剛性のために,応力-ひずみ関係が振動数に依存しないモデル化を示した.また,最大せん断応力と減衰特性を室内試験値と合わせたYAS(Yoshida-Adachi-Sorokin)モデルと名付けた複素剛性モデルを提案した.まず,最大せん断応力と減衰特性を合わせる複素剛性モデルは減衰定数が0.5以下でしかできないことを示した.さらに,最初にプログラムSHAKEに用いられた複素剛性であるSorokinモデル,現在標準的に用いられているLysmerが提案した複素剛性とYASモデルを比較,検討した.その結果,SHAKEは室内試験値に比べて最大せん断応力を過大評価すること,Lysmerの提案は,最大応力は室内試験値と一致しているが,履歴吸収エネルギーは室内試験値より小さいことを示した.ただし,Lysmerの提案によるモデルの履歴吸収エネルギーは,実務的に重要な0.3以下の減衰定数では,室内試験値に対する誤差は5%以下であることを示した.

  • -確率論的津波ハザード評価に向けて-
    鬼頭 直, 平田 賢治, 前田 宜浩, 土肥 裕史, 藤原 広行, 松山 尚典
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_82-1_105
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    南海トラフでは,過去約300年間で1946年昭和南海地震,1944年昭和東南海地震,1854年安政南海地震,1854年安政東海地震,1707年宝永地震の5つのプレート間巨大地震が発生している.本研究では,これらの巨大地震により生じた津波痕跡高を地震調査委員会(2017)の津波レシピに基づいた「特性化波源断層モデル」を用いて再現することを試みた.すべり不均質を2段階のすべり領域で表現した多数の特性化波源断層モデル群を用いて津波伝播遡上計算を実施し,各地震の津波痕跡高と計算した海岸での最大水位(T.P.)とを比較した.再現性の評価では,目視による確認に加え,相田(1978)の幾何平均 K と幾何標準偏差 κ および残差二乗和を算出し,再現性の指標とした.その結果,1854年安政南海地震,1854年安政東海地震,1707年宝永地震の3つの地震については,地震調査委員会の長期評価(2013)と不整合のない範囲で波源断層モデルの平均すべり量の調整が必要となったものの,各地震の津波痕跡高を良好に説明する特性化波源断層を求めることができた.これは,津波レシピに基づく特性化プロセスの妥当性を示唆するとともに,多数の特性化波源断層モデル群を考慮する確率論的津波ハザード評価の有効性を示す1つの根拠となる可能性がある.

  • 中島 由貴, 静間 俊郎, 中村 孝明
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_106-1_122
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    地表面最大加速度を指標とした液状化による構造物の損傷確率を求める確率モデルを提案する.これを地盤変状等の影響を直接受ける路盤・舗装構造物の機能喪失確率を評価するFragility Curveに適用する.不確実性等のパラメタは液状化や地盤増幅に関する既往研究から類推する.羽田空港を取り上げ,レベル1地震,レベル2地震による滑走路や誘導路等の路盤・舗装構造物の液状化に伴う機能喪失確率を評価する.また,液状化対策前後の機能喪失確率を比較するとともに,滑走路の利用可否の観点から対策の効果を考察する.

  • ―石川県羽咋市の医療ビッグデータを用いた検討―
    森崎 裕磨, 藤生 慎, 高山 純一, 柳原 清子, 西野 辰哉, 寒河江 雅彦, 平子 紘平
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_123-1_134
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    我が国で頻発する地震災害時において,災害時要配慮者と呼ばれる方々に被害が集中している.現在では,要配慮者の中でも特に避難行動に困難を抱える避難行動要支援者の名簿作成が行われている.しかし名簿への掲載状況や名簿掲載への基準が限定的であること等,様々な課題が存在している.本研究では避難時において困難を要すると考えられる下半身の整形外科系疾患患者を要支援者として広く捉え,国民健康保険データを用いたデータ抽出から町字単位の地域存在量の把握を行った.また,GISによるネットワーク解析を用い,最寄りの避難所までの距離の代理指標を町字単位で作成した.以上の分析より,羽咋市内に存在する整形外科疾患患者が地震災害時において強いられる可能性のある避難所までの距離を町字単位で評価することが実現した.本研究を通して羽咋市における整形外科系疾患患者,避難所までの距離の2つの観点から地域差を明らかにすることが可能となった.

  • 安田 進, 大保 直人, 島田 政信, 千葉 達朗, 永瀬 英生, 村上 哲, 先名 重樹, 北田 奈緒子, 石川 敬祐
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_135-1_158
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    2016年熊本地震では阿蘇カルデラにおいて特殊な帯状の陥没が多く発生し,住宅や道路,上下水道,農地,護岸が甚大な被害を受けた.その発生のメカニズムを研究するため,種々の現地調査,土質試験,解析を行った.合成開口レーダの測定結果によると陥没が発生した地区では局所的に2~3 mの水平変位が発生していた.この地区では9,000年前頃に湖が形成されていた.ボーリングや微動アレイ観測結果によると,湖底はお椀状で,そこに珪藻や軽石を含んだ特殊な粘性土層が堆積していた.この湖成層の土質試験を行ったところ,繰返しせん断力を受けると緩い砂の液状化と同様にせん断剛性が激減することが分かった.そこで地震応答解析および残留変形解析を行ったところ,地震動による湖成層のせん断剛性の急減により湖成層が湖底に沿って回り込むように変形し,それに引きずられて湖の縁付近の表層土に水平方向の引張り力が生じ,陥没が発生したと考えられた.

  • 佐々木 智大, 樋口 俊一
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_159-1_171
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    地中構造物は,断層変位に伴い発生する強制変位によって構造体の損傷や機能障害が想定される.本研究では,土被り20 mで地中に埋設された鉄筋コンクリート製ボックスカルバートを対象に,断層変位が作用した場合の応答を有限要素法により解析し,その損傷過程を分析するとともに,材料強度,地盤定数の不確実さを考慮した損傷確率を求め,その結果について考察した.その結果,断層の傾斜角度が低角(地面に対して30度)の場合,側壁に斜め引張破壊が生じる断層変位の偶然的不確実さ要因によるばらつきは地盤剛性が支配的であるのに対し,断層の傾斜角度が高角(地面に対して60度)の場合,側壁に斜め引張破壊が生じる断層変位の偶然的不確実さ要因によるばらつきは地盤剛性の影響が大きいものの,コンクリート強度と地盤強度が偶然的不確実さ要因によるばらつきに及ぼす影響も中程度にあり,構造物の損傷とともに構造物周辺の地盤が降伏する結果となることが明らかになった.

報告
  • 鳥澤 一晃, 松岡 昌志, 堀江 啓, 井ノ口 宗成, 山崎 文雄
    2021 年 21 巻 1 号 p. 1_172-1_186
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/02/26
    ジャーナル フリー

    本研究では,2016年熊本地震における熊本県宇城市の住家被害認定調査結果を用いて建物被害分析を行うとともに,推定地震動分布と組み合わせて建物被害関数を構築した.構造,建築年代,木造建物の屋根形式,階数による分類で被害率の傾向を分析した結果,全壊率は木造建物が非木造建物に比べて大きく,建築年代が古い木造建物ほど大きくなる傾向が分かった.宇城市の木造建物の建築年代別の被害関数は,益城町のものと比べると同じ地震動レベルに対して大幅に小さかった.今後,宇城市と益城町のデータを統合して用いることで,広い地震動の範囲で適用できる被害関数の構築を行う予定である.

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