日本地震工学会論文集
Online ISSN : 1884-6246
ISSN-L : 1884-6246
論文
南海トラフ地震情報を使った防災対応上の潜在的課題群の抽出法の開発
―ゆっくりすべりケースに対するテレビ報道を例に―
大谷 竜兵藤 守林 能成橋本 学堀高 峰川端 信正隈本 邦彦岩田 孝仁横田 崇谷原 和憲入江 さやか福島 洋
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2021 年 21 巻 2 号 p. 2_34-2_56

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抄録

国は,2017年に「南海トラフ地震に関連する情報(以降,南海トラフ地震情報)」を導入した.これは,駿河湾から九州の日向灘沖にかけての南海トラフ沿いで,地震が発生したり,異常な地殻変動が観測された場合等に,巨大地震への警戒や注意を呼びかける新たな防災情報である.しかしながら,現在の地震学の知見では,地震の発生時刻や規模を正確に予測することは難しい.そのため南海トラフ地震情報は,地震災害軽減に寄与する大きな可能性がある一方で,空振りとなる等の「不確実性」をもはらんでいる.そこで本研究では,最新の地震学の知見に基づき,シナリオ手法を用いて,南海トラフ地震情報の発表や在京メディアによるテレビ報道の仕方に関する仮想的なストーリーを作成し,それに対する情報の受け手側の対応を多面的かつ具体的に検討することで,この情報を使った防災対応上の潜在的な課題を「仮説」として抽出する新たな手法の構築を試みた.これらの潜在的な課題に対して,社会が事前に適切な対策を講じることができれば,南海トラフ地震情報の有効性を高める効果が期待できるからである.こうした「課題発掘ツール」としての可能性を検証するため,実際に静岡県の防災担当部局やローカルメディアを対象としたワークショップを実施した結果,セクター間の対応や考え方の不整合から生じうる,これまで認識されていなかった防災対応上の課題の候補を複数見つけ出すことができた.

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