日本地震工学会論文集
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論文
鉛直アレー観測点間で相関する地震動成分の地盤伝達関数
池浦 友則
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2009 年 9 巻 1 号 p. 1_65-1_82

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抄録
鉛直アレー地震動観測記録の周波数領域における統計的な解析法として,観測地震動をコヒーレントな波動成分(信号成分)とインコヒーレントな波動成分(雑音成分)に分離する手法を示した.ここに,信号成分はアレー観測点間で完全に相関する成分であり,一方,雑音成分は自分以外との相関性を持たないものとしている.この方法を仙台高密度アレーMIYA地点の鉛直アレーデータに適用して信号成分と雑音成分の振幅特性を調べた.その結果,全測点とも概ね雑音成分に比べ信号成分が卓越するが,地中観測点において上昇波と下降波の相殺効果が生じる周波数や地表観測点の高周波数領域では,信号成分に代わって雑音成分が卓越することがわかった.このことは鉛直アレー観測記録から地盤内部の波動伝播現象を解釈する際に観測点間でインコヒーレントな雑音成分の存在が無視できないことを示唆している.事実,信号成分のみから評価される地盤伝達関数は観測記録から直接求められる従来の地盤伝達関数に比べてピークが高くトラフが深い.そこで,これらの地盤伝達関数から推定される地盤パラメータの違いを明らかにするため,信号成分の伝達関数と従来法による伝達関数を用いてそれぞれ地盤定数の最適化解析を行い,低周波数領域では信号成分の地盤伝達関数から推定される減衰定数が従来の伝達関数を用いた場合に比べて小さくなることを示した.結論として,鉛直アレー地震動記録に含まれるインコヒーレントな雑音成分は地盤伝達関数のピークを抑制しており,その結果,低周波数領域における地盤減衰定数の過大評価の原因となっている.
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© 2009 一般社団法人 日本地震工学会
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