抄録
東京都心部での関東地震による地震動の強さ分布は, 河角 (1951) や望月・椿木 (1993) などの結果があり, 相対的には殆ど蛇足を要しないと思われるが, 何れの結果も評価の条件が詳細に書かれていないこと, 結果の表現が評価当時の技術レベルに依存しており, 今日地震防災に生かそうとしたときには, より明解な資料が要求されることから, 本稿では, 近年の調査結果や新しく発掘された資料を用いて再度震度評価を行った。主な結果をまとめると以下の通りである。まず, 山の手台地上は一般に震度が小さく大半が5強以下である。これに対し, 震度が6強から7と判定される地域は, 1つは下町低地の隅田川の東側の本所区, 深川区, 以西の浅草区と下谷区の上野公園と浅草公園を結ぶ線より北側である。下町低地のうちでも南側の浅草区南部, 神田区東部, 日本橋区, 京橋区は震度が低く, これらの地域は現在の上野台地や本郷台地の一部が波によって削られた波食台と呼ばれる埋没台地が地下に存在する地域に対応する。この他震度の高い地域は, 日比谷, 大手町, 神田神保町にかけての地域である。江戸時代以前は, 日比谷から大手町にかけては日比谷の入江が存在し, そこに神田神保町方面から神田川の前身である平川が流れ込んでいた。今でも地下には丸の内谷, 平川谷と呼ばれる沖積基底の谷地形があり, それに沿う形で震度が高い。このように, 震度分布は表層地盤の構造と強く関連し, その理解には長年にわたる土地の人工改変の歴史も重要な情報である。