本研究は,地方移住の広まりと地域対応の実態を明らかにすることで,地方創生の可能性について検証した.とりわけ,大都市圏から地方圏への移住者の属性と,移住先の地域特性を明らかにすることを試みた.そして,地方移住の要因を探るとともに,地域政策の実態などともからめて検討を行った.
本研究の結果,以下の諸点が明らかになった.
第1に,「田園回帰」と言われる現象は確かにみられる.ただし,地方移住を意味する「狭義の田園回帰」は地方圏全域で平均的にみられるのではなく,特定の市町村や特定の地区において限定的に確認できる.
第2に,地方移住は20代から30代の若者が中心であり,これらの年代の中には,進学や就職で大都市圏に流出した人々のUターンも含まれている.一方で,多様な理由で大都市圏から地方圏へ移住するI ターンがみられる.
第3に,「田園回帰」が一過性の現象であるのか,今後も一定期間継続する構造的な現象であるのかについては判断が難しいといえる.また,日本でみられる「田園回帰」現象が,欧米のカウンター・アーバニゼーションと類似した現象なのか,異なる現象であるのかについても現在のところ明確には判断できない.
第4に,移住者が移住先に選んだ地域の空間的な傾向は一定していない.一方で,「移住・定住促進施策」が充実していることや,市町村役場の担当職員や地域住民等との「人的接触」が地方移住を決断する重要な要素であることが判明した.
以上のように,地方圏では「田園回帰」現象は確実にみられ,その原動力は若者を中心とした地方圏に対する多様な期待感によるものであるとの結論に至った.