経済地理学年報
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論説
国土形成計画制度の意義と課題
―国土計画体系見直しの議論を追う―
矢田 俊文
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2016 年 62 巻 4 号 p. 360-384

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抄録

    20世紀後半の日本では全国総合開発計画を核とする国土計画制度は,産業基盤や交通基盤の整備を通じて,戦後復興と高度経済成長に大きな役割を果たした.他方,この制度の下での政策は,個々の全総計画でたびたび繰りかえされてきた「国土の均衡ある発展」という理念とは異なって,「一極一軸型」の国土構造が構築され,地域格差の拡大,自然環境の破壊など地域問題をまねいた.政府は,1990年代の後半から国土審議会において国土計画制度の見直し作業を行い,2005年の国土形成計画法よって21世紀の国土計画制度がスタートした.
    本稿では.審議会委員の一人として,約6年間の国土審議会の議論に参加した体験に基づき,関係する会議の議事録を分析することによって新しい制度の意義と課題を解明した.
    意義の第1は,国土形成計画を全国計画と広域地方計画の2層構成とし,具体的プロジェクトを盛り込んだ広域地方計画を中央と地方政府協働で策定・実施することによって,「国家主導型」から「国と地方協働型」に転換したことである.
    第2に,持続可能な国土を次世代に継承することを強調し,国土計画の理念を「開発基調型」から「国土の整備・保全型」ないし「国土の整備・保全・継承型」に移行した.ただ,森林など生態系保存に有効な国土利用計画法と国土形成計画法の統合には失敗した.
    第3に,戦後半世紀,時々の要請に対応して制定された多くの法律が廃止され,その他の法律も評価システムの下に置くとともに,社会資本整備重点計画法を成立させるなど,公共投資の重点化・効率化と財政削減効果を図った.

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© 2016 経済地理学会
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