抄録
本研究は,エスニックスポーツの1 つとして日本古来の剣道をとりあげ,剣道具の生産・流通にかかわる人々がどのように剣道の文化的伝統性を認識し,事業展開を図っているかを解明することを目的とした.
剣道具は近年,消費者の低価格志向が総じて強く,小売業者や組立業者もそれに対応した生産・販売戦略を採らざるを得なくなっている.その戦略を採る組立業者は,量産化や生産拠点の海外移転に加え,高価な国産天然材料よりも人工素
材材料などの安価な代替材料を使用するようになり,そのことが国内の材料業者の経営状況を悪化させている.そのため
材料業者は,後継者不在をきっかけに廃業を検討したり,剣道具材料以外の製品を生産・販売することで経営を安定させ
ようとしたりしている.その一方で,剣道の文化的伝統性を重視する消費者と事業者も存在しており,低価格志向の消費
者・小売業者とそれに対応して生産体制の合理化を進める組立業者と材料業者が形成する生産・流通・消費ネットワーク
に加えて,文化的伝統性を重視する消費者と事業者による生産・流通・消費ネットワークが併存する状況が生じている.
2 つのネットワークは,材料毎ないし産地毎に計画的,組織的に形成されたものでなく,剣道の文化的伝統性に対する意
識の有無あるいは強弱にもとづいて自発的に形成されたものである.