経済地理学年報
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研究ノート
太平洋の島嶼地域における2つの流動量の決定要因の比較
―観光客,移民による海外送金の流動を事例に―
高橋 環太郎
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2018 年 64 巻 1 号 p. 24-35

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抄録

    本研究では空間的相互作用を記述する重力モデルを援用し,太平洋の島嶼地域における観光客,移民による海外送金といったそれぞれの流動パターンの分析および比較を目的としている.国際間における移民や海外送金はMIRAB論が示す通り,内部の市場が小さい島嶼地域における経済を考える上で重要な要素である.また,島嶼地域では貿易が主要な経済活動となるが,その中でもサービス貿易の1つである観光は島嶼地域では特に重要な産業である.一方,島嶼経済を取り巻くこれらの流動データは先進国と比べゼロフローが多く,サンプル数が少ないため,これまで計量経済学的な手法による分析はあまり多くされていなかった.本研究ではこの点にも着目し,ゼロフローを考慮した分析手法により,島嶼地域における空間的相互作用モデルの分析を行った.
    分析の結果,重力モデルの基本的な変数では流動の違いによるモデル間のパラメータの差はみられず,送出地域および受入地域ともに所得および距離の弾力性がおおむね高いことがわかった.一方,物価弾力性,植民地関係,言語関係を表す変数にはモデル間の差がみられ,海外送金の流動は観光客流動よりもこれらの変数の影響が高いことが示された.さらに変数選択による最適モデルを検証したところ,2つのモデル間で同様の変数が選択された. 分析の結果を踏まえて,太平洋の島嶼地域における観光戦略や移民政策を議論する場合,それぞれを独立した現象ではなく,関連した現象として議論することが重要な視点となり得ることが示された.

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© 2018 経済地理学会
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