経済地理学年報
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研究ノート
社会関係資本からみた長崎市におけるビワ栽培の持続性と地域的課題
寺床 幸雄
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2018 年 64 巻 1 号 p. 36-54

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抄録

    本研究は,長崎市のビワ栽培を事例として,社会関係資本がどのような文脈で農業の持続に役割を果たしていたのかを明らかにした.分析では結束型,橋渡し型という社会関係資本の機能の差異に注目し,それらが農業の持続において果たし得る役割とその限界について検討した.
     長崎県では,1970年代に柑橘の生産調整でビワへの転換が行われ,一部の地域ではビワ産地としての性格が強まった.1980年代には収穫時期の分散のためにビワのハウス栽培が導入された.その後ハウス栽培は低迷したものの,積極的な新品種の導入や技術革新を通じてビワ栽培は持続されている.その背景には,集落単位で結成されていた出荷組合と,農業改良普及所との緊密な連携が重要な意味を持っていた.出荷組合は流通の集約だけでなく,地域的結束の核となり,結束型の社会関係資本の蓄積に寄与した.さらに,篤農家が普及所の職員と信頼に基づく関係性を構築し,多くの新品種,新技術導入に寄与したことは,橋渡し型の社会関係資本としてとらえることができる.
     しかし,近年の担い手不足により,社会関係資本の役割は限定的になっていた.かつてのハウスビワ導入時とは異なり,近年の活性化事業では若手農家の主体性と積極性は限定的である.産地全体からみれば相対的にビワ栽培の持続は認められるが,農家の高齢化が進む中で,地域の農家の内実と外部からの支援の方向性には不一致が生じていた.

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© 2018 経済地理学会
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