経済地理学年報
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研究ノート
植物工場における野菜生産の意義とその多様性
―関東地方の人工光型植物工場を事例に―
柏木 純香
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2019 年 65 巻 2 号 p. 177-191

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抄録

    本研究は,人工光型植物工場がその経営主体の生産活動に果たしうる役割を明らかにした.その際,関東地方に位置する2社(製造業G社・飲食サービス業T社)の植物工場を事例として,植物工場における生産形態の特徴と植物工場産野菜の供給体系の特質を検討した.性格の異なる2つの主体が運営する植物工場を比較検討することで,植物工場における野菜生産の意義をより体系的に理解することを目指した.得られた知見は以下のように整理される.
    第1に,農外資本であるG社とT社は野菜の栽培経験に乏しく,植物工場で野菜を生産することで,栽培環境の変動を抑え,予測通りの生産量をあげていた.第2に,G社・T社は植物工場で養液栽培や多段栽培を行うことにより,従来型の露地栽培とは異なる環境をつくり出しており,このことが作付体系の管理の効率化や,土地生産性の向上を可能にしていた.第3に,G社は製造業者ということもあり,事業への参入当初,十分な野菜の販路を確保していなかった.植物工場で高付加価値の野菜を生産することにより,高価格帯の新たな流通チャネルを創出していた.一方,飲食サービス業のT社は,事業開始前から,セントラルキッチンや飲食店といった生産物の販路を十分に確保しており,植物工場で安定的に生産することで,その流通チャネルに確実に野菜を供給していた.

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© 2019 経済地理学会
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