日本腹部救急医学会雑誌
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腹部救急診療と異状死の届出
古川 俊治和田 仁則菅沼 和弘北川 雄光
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2008 年 28 巻 5 号 p. 659-667

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抄録

腹部救急診療では,事故や中毒などによる外因性の患者死亡や,重症の内因性疾患に対する診療行為の合併症などによる患者死亡が発生する。医師法21条は,異状死の届出義務を規定しているが,診療に関連して患者死亡が発生した場合に,どのような事例がこの届出義務の対象となるのかについては法医学と臨床の医師,法曹などの間で意見が対立し議論が重ねられてきた。現在国会において新制度成立のための法案が作られている。新制度では,(1)制度目的は医療関係者の責任追及ではなく,原因究明・再発防止にあること,(2)調査委員会への届出と医師法21条に基づく届出は重複しないこと,(3)行政処分は限られた事案について,個人の処分ではなく,システムエラーの改善や教育に重点を置いてなされること,(4)刑事事件の対象とされるのは故意・重過失等の悪質な事案に限られることなど,医療界の意見に相当程度配慮したものとなっている。新制度が施行されるまでの間は,明らかな過誤が疑われる場合には警察署へ届出を,客観的諸所見から合理的に死因が推定できない場合や遺族が疑念を懐く可能性がある場合などには警察署に相談をしておくべきだと考えられる。後者の場合には,全国8地域で実施されている「診療行為に関連した死亡の調査分析モデル事業」に調査・分析を依頼することもあわせて考慮されるべきである。

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© 2008 日本腹部救急医学会
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