抄録
脾臓は最も多く損傷を受ける腹腔内臓器である。肝臓と同様に上腹部を占める実質臓器であるが,内部の組織構造が粗であるために,損傷し易い上に,出血しても損傷部周辺の実質による圧迫効果が弱い。現在外傷初期診療において標準的に用いられているCTは,仮性動脈瘤や造影剤の血管外漏出像といった血管損傷の所見をより短時間で,より正確に評価することを可能としている。脾損傷の治療法選択は,循環動態や他の損傷の数と程度などから総合的に判断されるが,CTがもたらす情報は大変重要である。CTで造影剤の血管外漏出や仮性動脈瘤形成といった血管損傷の所見を認めた場合には,被膜断裂がなくても肝臓より積極的に経カテーテル的動脈塞栓術を考慮する必要がある。日本外傷学会臓器損傷分類2008では,血管損傷の有無を評価に含めていないが,中島らは2007年にCT所見に基づく肝,脾臓器損傷分類を提唱している。本分類では,血管損傷の有無を加味しており,治療方針決定に際し有用なgrading systemといえる。