2023 年 43 巻 5 号 p. 819-825
血管損傷に対する血管内治療としては大きく分けて血管塞栓術とステントグラフト内挿術がある。血管塞栓術を選択した場合の多くでは母血管血流の温存が困難であり,臓器血流低下による合併症が懸念される。例えば,膵頭十二指腸切除術(PD)後では数%で術後出血が発生すると報告されている。多くの場合,膵液瘻や膿瘍が併存し,仮性動脈瘤が破綻すると大量出血をきたし,致命的になることもある。従来,破綻した血管に対する血管内治療は血管塞栓術がその主軸を担ってきた。血管塞栓術は広く普及しており,短時間に出血を制御できる方法であるが,肝動脈血流を遮断するため,門脈血流が不十分な場合や下横隔動脈などの側副血行路の発達が期待できない場合には肝不全に陥る可能性がある。この問題点を解決するためのデバイスがステントグラフトである。日本では,2016年2月15日にGOREⓇ VIABAHNⓇ Endoprosthesis with Heparin Bioactive Surface(以下,VIABAHNⓇ Stent Graft)が保険収載された。市販後調査(post marketing surveillance:PMS)を経て多くの施設で留置可能となった。ステントグラフトを適切に留置することができれば,出血コントロールだけでなく,肝動脈血流を温存することも可能である。VIABAHNⓇ Stent Graftを挿入するためには,ガイディングシースを出血部位近傍まで安全に挿入する必要がある。血管解剖によっては鼠径部アプローチだけでなく上腕アプローチを選択すること,そのためには術前のCT画像(とくにvolume rendering像)を参照する必要がある。本稿では,実際の手技や留意点を紹介しつつ文献考察を加えて解説する。