日本腹部救急医学会雑誌
Online ISSN : 1882-4781
Print ISSN : 1340-2242
ISSN-L : 1340-2242
43 巻, 5 号
選択された号の論文の21件中1~21を表示しています
原著
  • 室屋 大輔, 加来 秀彰, 下河邉 久陽, 長尾 祐一, 和田 義人, 宗 宏伸, 谷脇 智, 明石 英俊, 下河邉 智久
    原稿種別: 原著
    2023 年 43 巻 5 号 p. 803-808
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    近年,急性虫垂炎に対する保存的治療の適応が拡大してきている。今回われわれは,急性虫垂炎に対する保存的治療の奏効群および非奏効群を比較し,非奏効に関する因子を検討した。当院で保存的治療を施行した60例中49例で完遂できたが,11例は非奏効で手術を施行した。非奏効群では治療開始後のWBC,CRP上昇例が多く,糞石を有し,腹水を認めた症例や複雑性虫垂炎症例が多かった。術後因子の比較では非奏効群で出血量とドレーン留置率,合併症率,在院日数が増加した。欧米では保存的治療後先行し,治療効果に乏しい場合に手術するdelayed appendectomy(以下,DA)の概念が報告されている。入院48時間以内に即時手術に移行した症例に限った群と保存的加療奏効群との比較では術後合併症率に差は認めなかった。保存的治療を選択する場合,WBCとCRP値の治療効果判定を行い,DAへの移行を早期に判断するべきと考えられた。

特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
  • 上嶋 聡, 嶺 貴彦, 池田 慎平, 八方 政豪, 斉藤 英正, 杉原 史恵, 上田 達夫, 汲田 伸一郎
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 811-817
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    腹部救急領域における経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:以下,TAE)へのニーズは,機器の進歩に伴って近年ますます高まっている。腹部救急領域で用いられる塞栓物質としては,固形材料であるゼラチンスポンジと金属コイル,シアノアクリレート系液体接着剤であるn-butyl-2-cyanoacrylate(以下,NBCA)の使用頻度が高い。ゼラチンスポンジは汎用性の高い一時的塞栓物質であり,血流を停滞させて血栓化を促進する。この塞栓メカニズムには凝固能が大きく関与するため,症例によっては凝固能への依存が少ないNBCAが適する。金属コイルは留置部位において強い塞栓効果を発揮するため,限局的な血管閉鎖を求める場合に効果的である。最良のTAEを行うためには,塞栓物質の特徴を理解し,病変の形態や血行動態,患者背景に応じて適切な塞栓物質を選択する必要がある。本稿では,代表的な塞栓物質の特徴と使用方法について概説する。

  • 近藤 浩史
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 819-825
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    血管損傷に対する血管内治療としては大きく分けて血管塞栓術とステントグラフト内挿術がある。血管塞栓術を選択した場合の多くでは母血管血流の温存が困難であり,臓器血流低下による合併症が懸念される。例えば,膵頭十二指腸切除術(PD)後では数%で術後出血が発生すると報告されている。多くの場合,膵液瘻や膿瘍が併存し,仮性動脈瘤が破綻すると大量出血をきたし,致命的になることもある。従来,破綻した血管に対する血管内治療は血管塞栓術がその主軸を担ってきた。血管塞栓術は広く普及しており,短時間に出血を制御できる方法であるが,肝動脈血流を遮断するため,門脈血流が不十分な場合や下横隔動脈などの側副血行路の発達が期待できない場合には肝不全に陥る可能性がある。この問題点を解決するためのデバイスがステントグラフトである。日本では,2016年2月15日にGORE VIABAHN Endoprosthesis with Heparin Bioactive Surface(以下,VIABAHN Stent Graft)が保険収載された。市販後調査(post marketing surveillance:PMS)を経て多くの施設で留置可能となった。ステントグラフトを適切に留置することができれば,出血コントロールだけでなく,肝動脈血流を温存することも可能である。VIABAHN Stent Graftを挿入するためには,ガイディングシースを出血部位近傍まで安全に挿入する必要がある。血管解剖によっては鼠径部アプローチだけでなく上腕アプローチを選択すること,そのためには術前のCT画像(とくにvolume rendering像)を参照する必要がある。本稿では,実際の手技や留意点を紹介しつつ文献考察を加えて解説する。

  • 瀧川 政和, 井上 登士郎, 平川 耕大, 浅野 雄二, 大森 智子
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 827-832
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    内視鏡治療困難な上部消化管出血に対してTAEが選択されている。上部消化管は血管吻合が多く,塞栓術を行う際には血管解剖を熟知して塞栓を行う必要がある。とくに近年保険収載された塞栓物質であるNBCAは血液凝固能に依存せず,塞栓が可能なため,良好な治療成績が得られている。NBCAは液体塞栓物質のため,使用する際にはNBCAの特性を理解して,塞栓方法を選択する必要がある。使用法を熟知することにより安全に使用が可能となる。とくに上部消化管は血管吻合が多く,虚血に強い臓器であることからNBCAの塞栓のよい適応と考える。

  • 和田 慎司, 橋本 一樹, 濱口 真吾, 松本 純一, 三村 秀文
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 833-837
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    下部消化管出血に対するIVRは経カテーテル動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:以下,TAE)が中心である。下部消化管出血のなかでも大腸憩室出血,小腸出血がTAEを要する機会が比較的多い。小腸と大腸の多少の解剖学的相違はあるが,選択的な塞栓術が効果的な治療の鍵である。大腸憩室出血,小腸出血,直腸動静脈奇形の3症例を提示しながら,下部消化管出血に対するIVRについて概説する。

  • 池田 慎平, 八方 政豪, 上嶋 聡, 嶺 貴彦, 川口 祐香理, 船木 裕, 坂野 高広, 上田 太一朗, 山本 真梨子, 安松 比呂志, ...
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 839-843
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    下部消化管出血に対する経皮的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:TAE)が選択される機会は増えており,その有用性はすでに示されているが,消化管虚血などの合併症が問題となるため,塞栓範囲の設定や塞栓物質の選択を適切に行うことが重要である。下部消化管出血においては,直細動脈(vasa recta)が出血源であることが多く,出血点が明らかであれば金属コイルやn-butyl-2-cyanoacrylate(NBCA)を用いたvasa rectaの選択的塞栓が第一選択である。出血点が明らかでない場合の代替手段として,イミペネム・シラスタチン(IPM/CS)の使用がここ数年で報告されるようになった。

  • 竹之内 晶, 三宅 謙太郎, 豊田 純哉, 油座 築, 菊地 祐太郎, 藪下 泰宏, 澤田 雄, 本間 祐樹, 松山 隆生, 遠藤 格
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 845-851
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    膵切除は消化器手術のなかでも難易度が高い手術であり,術後合併症発生率もいまだ高率である。なかでも出血性合併症は,もっとも重篤な合併症であり,致死的となる可能性がある。主に膵液瘻に伴う仮性動脈瘤形成が出血源となることが多く,適切なドレーン管理による膵液瘻治療がその予防の鍵となる。膵切除術後にドレーンの血性排液や消化管出血を認めた場合は,積極的に腹腔内出血を疑い迅速に造影CTや血管造影を行い出血源の同定に努めるべきである。治療は血管内治療(IVR)が第一選択であるが,肝動脈塞栓では肝機能障害や肝膿瘍を併発する可能性があり,最近では血流を温存しつつ止血可能なカバードステントグラフトの有用性も報告されている。ただし,IVRで対応不能な症例も一定数存在するため開腹止血術も考慮した迅速かつ適切な治療法選択が不可欠である。

  • 和田 智貴, 高橋 正道, 川合 豪, 町田 宗貴, 松岡 勇二郎
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 853-857
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    VIABAHNは小径のステントグラフトであり,コイルなどによる塞栓術と同様に血管損傷に対して適応がある。コイル塞栓術では治療部の血流が遮断されるがVIABAHNによる治療では治療部の血流を温存することができる。ただし,従来コイル塞栓術で治療していた腹部血管損傷のすべてをVIABAHNで治療できるわけではない。本稿では血管損傷に対する血管内治療の方法を選択するうえで6つの検討事項を提案した。①損傷部の血管径,②塞栓することで生じ得る臓器虚血,③損傷部までのアクセスルート,④施設におけるVIABAHNの可用性,⑤それぞれの手技に要する費用と時間,そして⑥VIABAHNが留置後に閉塞する可能性,である。血管損傷に対する血管内治療では不確実で定量困難な患者要素や術者要素,施設要素を評価して治療方法を決定することになる。したがって,症例ごとに診療経過を振り返り,治療方法の選択が適切であったかを検討することで知見を集めることが大切であると考える。

  • 岡崎 充善, 片野 薫, 杉田 浩章, 所 智和, 武居 亮平, 髙田 智司, 加藤 嘉一郎, 中沼 伸一, 牧野 勇, 八木 真太郎
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 859-862
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    膵切除後の出血はまれではあるが致命的な合併症の1つであり,治療は血管内治療により止血を行うことが第一選択である。従来は動脈塞栓術が行われてきたが,塞栓後の末梢臓器血流不足による肝膿瘍,肝不全,腸管壊死が問題となる。近年covered stent留置の有用性が報告されているが,stent閉塞予防目的の抗血小板薬の薬剤の選択や投与期間に関する指針がなく,ステント留置後の閉塞や長期成績における抗血小板薬の影響について明らかにされていない。心筋梗塞などの急性冠症候群や頸動脈狭窄に対するstent留置を行う場合と最大の相違点は出血と血管周囲の感染の有無であり,出血を伴うことから抗血小板薬の使用を慎重に判断する必要がある。今回,当科における肝動脈からの膵切除後出血(postpancreatectomy hemorrhage:PPH)に対するstent留置症例の抗血小板薬使用経験を報告する。

  • ウッドハムス 玲子, 藤井 馨
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 863-871
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    悪性腫瘍による消化管出血は,原発巣に対する治療の遅れになるばかりか,貧血の進行が全身状態の悪化につながり,致死的となる可能性があり,そのコントロールは,患者の予後を左右する。一般的には内視鏡的止血術が第一選択となるが,循環動態不良,あるいは不安定,内視鏡的止血術での止血困難,あるいは出血を繰り返す症例に対して,経カテーテル的動脈塞栓術(transcatheter arterial embolization:以下,TAE)が選択される。TAEの技術的止血成功率は高く,臨床的成功率も内視鏡とほぼ同等である。腫瘍出血に対するTAEで危惧される合併症は虚血である。腫瘍出血TAEにおいては,腫瘍の血流遮断の程度と,臓器血流維持のバランスを見極めることが重要である。このためには,適切な塞栓物質の選択と塞栓範囲,塞栓強度の判断が重要である。本稿では,悪性腫瘍による消化管出血に対するTAEについて解説する。

  • 井上 政則
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 873-877
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    内臓動脈瘤破裂は極めてまれである。しかし存在部位によって破裂のリスクが異なるため,予防的な治療の適応も異なる。また近年では特殊な病態である分節的動脈中膜融解(segmental arterial mediolysis:SAM)の破裂の報告も増えている。破裂症例では多くの場合,治療の第一選択はtranscatheter arterial embolization(TAE)であり,最適な塞栓方法を選択する。また塞栓物質としては金属コイルがもっとも一般的であるが,ステントグラフトや液体塞栓物質であるヒストアクリルも近年保険適応となったことで治療の選択肢が増えたことは重要である。

  • 長谷 聡一郎
    原稿種別: 特集:腹部救急領域におけるIVRの最近の知見,手技
    2023 年 43 巻 5 号 p. 879-885
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    破裂性腹部大動脈瘤(ruptured abdominal aortic aneurysm:以下,RAAA)の治療に関する最近のトピックは日本・米国・欧州の各ガイドラインが“解剖学的要件を満たせば腹部大動脈ステントグラフト内挿術(endovascular aneurysm repair:以下,EVAR)が第一選択”に変更されたことである。しかし腹部コンパートメント症候群といった救命率向上の障壁となる未解決問題が残されている。本総説ではRAAAに対するEVARの問題点を明らかにし,筆者の施設で行っている対策法について述べる。

症例報告
  • 寺田 剛, 工藤 泰崇, 橋本 紳太郎, 穐山 竣, 上畑 恭平
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 887-890
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は70歳,男性。59歳時に憩室炎によるS状結腸膀胱瘻に対しハルトマン手術およびハルトマンリバーサルを施行されていた。半年前からの気尿,前日からの発熱,糞尿,排尿時痛を主訴に受診した。腹部CTで膿瘍形成を伴う多発結腸憩室と膀胱内の含気を認めた。下部消化管内視鏡,膀胱鏡,注腸造影検査の所見から,結腸憩室炎による結腸膀胱瘻,小腸瘻と診断し,手術を施行した。膿瘍腔を開放し,前回吻合部より口側に2ヵ所の結腸小腸瘻を同定した。結腸膀胱瘻は自然閉鎖していた。小腸を縫合閉鎖し,2ヵ所の瘻孔部と前回吻合部を含む12cmの結腸を切除するハルトマン手術を施行した。術後は表層切開創手術部位感染症とカテーテル関連血流感染症および化膿性脊椎炎を合併したが軽快し,術後32日目に退院となった。術後2年で再発を認めていない。結腸憩室炎術後に再発し結腸膀胱瘻に至る症例はまれであり,文献的考察を加え報告する。

  • ─自験例を含む本邦報告47例の集計─
    川上 晃樹
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 891-895
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は82歳,男性。下肢皮膚潰瘍,骨髄炎に対し当院形成外科で入院加療を行っていた。某日,腹部膨満および呼吸困難症状を認め,精査の結果,右横隔膜ヘルニア嵌頓による絞扼性腸閉塞の診断で緊急手術を行った。18年前に転落外傷による右外傷性血気胸,多発肋骨骨折,肝損傷の既往があったため,外傷性横隔膜ヘルニアと考えられた。術中所見では,横行結腸が横隔膜より胸腔内に脱出し嵌頓していたため,腹腔内へ還納し,壊死した腸管を切除し,一時的に閉腹し,2日後に腸管吻合を施行した。術後は肺炎や創部筋膜離開などの周術期合併症が生じ,治療が長期化し,第130病日にリハビリ目的に転院となった。外傷性横隔膜ヘルニアは,遅発性に発症する場合もあるため,外傷歴やリスク因子の評価が必要である。また,臓器切除を必要とする場合もあるため,早期治療介入が重要である。

  • 平野 雅子, 大森 隆夫, 畑中 友秀
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 897-900
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は79歳,女性。腹痛を主訴に前医を受診し新型コロナウイルス感染症(corona virus disease 2019:以下,COVID-19)合併直腸穿孔,敗血症と診断された。COVID-19による医療提供体制が逼迫した状況で,患者は前医を含む複数の高度医療実施機関で治療困難として緩和ケア依頼で過疎地域病院の当院へ搬送された。当院ではCOVID-19患者への手術は困難であったが保存治療で全身状態を安定させ,隔離解除後に腹腔鏡下人工肛門造設術を施行した。隔離解除は「COVID-19診療の手引き」の退院基準に準拠したが,直腸穿孔に起因すると考えられた発熱によりCOVID-19症状軽快の判断が困難となった。COVID-19と増悪時に発熱をきたす疾患を合併した症例に隔離解除後の手術を検討する際,COVID-19症状を慎重に観察し病原体検査を用いた隔離解除が早期の手術実施に重要と考える。

  • 森 祐太, 桂 守弘, 加藤 崇, 伊江 将史
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 901-904
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    非手術治療の適応が拡大しつつある小児外傷診療においても,膵管損傷を伴う高度膵損傷に対する手術治療と非手術治療の適応に関してはいまだ明確な結論が出ていない。当院で治療した日本外傷学会分類Ⅲ型の膵損傷3例について後方視的に非手術治療の妥当性を検討した。年齢は5〜14歳,すべて男児の鈍的外傷による膵単独損傷(Ⅲa型1例,Ⅲb型2例)であった。CT検査は全例に行われ,1例には内視鏡的逆行性膵管造影(endoscopic retrograde pancreatography:以下,ERP),2例にはMR胆管膵管造影(magnetic resonance cholangio pancreatography:MRCP)が行われた。全例で非手術治療が選択され,うち1例にERPによるステント留置,2例に腹水ドレナージが行われた。中心静脈栄養は2例に行われた。少なくとも2例に膵仮性囊胞の形成を認めたがいずれも自然消失し,在院死亡や再入院はなかった。慎重かつ継続的な全身観察を要するが,小児においては膵管損傷を伴う高度膵損傷に対する非手術治療は検討に値する治療戦略であり,今後も症例集積によるさらなる検討が期待される。

  • 見原 遥佑, 丸尾 啓敏, 田井 優太
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 905-908
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は90歳,女性。自宅で倒れているところを発見され,当院に救急搬送された。意識障害があり,腹膜刺激症状は認めなかった。CT検査で急性胆囊炎の所見のほか,骨盤部に限局した腹腔内遊離ガス像,および腸間膜内,後腹膜にわたる広範なガス像を認め,下部消化管穿孔を疑い緊急開腹手術を施行した。開腹すると骨盤内に混濁腹水,気腫がみられるものの明らかな消化管穿孔は認めなかった。胆囊は壊疽性胆囊炎を呈しており,胆囊摘出術を施行した。術後は敗血症性ショックと播種性血管内凝固を併発したが,術後36日で退院した。胆汁培養ではガス産生菌であるClostridium perfringens が検出された。病理組織学的検査では胆囊壁に気腫性変化を認めた。骨盤部に腸管外ガスを認めた胆囊炎の報告例は少なく,文献的考察を加え報告する。

  • 梶原 庸司, 岡田 嶺, 木村 和孝, 前田 徹也, 園部 聡, 栃木 直文, 大塚 由一郎
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 909-913
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は69歳,男性。吐血,黒色便を主訴に救急搬送された。血液検査で貧血(Hb 9.3g/dL)を認め,造影CT検査の動脈相で胃十二指腸動脈に65×45mmの動脈瘤があり,十二指腸球部に造影剤の漏出を認めた。血管造影検査で胃十二指腸動脈根部から2cm末梢の位置に47×33mmの動脈瘤を確認し,十二指腸内に造影剤の血管外漏出を認めたため,コイル塞栓術を施行した。同日夜間に再出血,Hb 6.9g/dLまで低下を認め,再度コイル塞栓術を追加し止血を得たものの,再出血の可能性を考慮し,入院8日目に膵頭十二指腸切除を施行した。胃十二指腸動脈瘤は破裂すると救命できないこともある。今回,胃十二指腸動脈瘤十二指腸穿破に対し,手術療法を選択し,救命し得た。

  • 中村 駿, 岩城 堅太郎, 福澤 謙吾
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 915-918
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は40歳台,男性。腹痛を主訴に前医受診され,腸重積の診断で当院救急搬送となった。腹部造影CTで小腸腫瘍に伴う腸重積の診断となり,緊急手術を行った。手術は中腹部正中切開で開腹し,嵌頓腸管を含め,約1mの小腸切除を行い,吻合し手術を終了した。術後経過は良好で,術後10日目に自宅退院となった。病理組織診断では,異型性のない上皮の過形成と粘膜筋板の樹枝状増殖を認め,Peutz-Jeghers型ポリープの診断となった。Peutz-Jeghers型ポリープによる成人腸重積症の症例はまれであり,若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 尾崎 貴洋, 船水 尚武, 五十嵐 一晴, 峯田 章, 大村 健二, 若林 剛
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 919-921
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例1は53歳,男性。腹水を伴うアルコール性肝硬変で当院消化器内科に通院中であった。呼吸苦が出現し当院を受診された。胸部X線写真で右胸腔に大量の胸水貯留を認めた。利尿薬やアルブミンを投与するも改善しなかったため手術の方針とした。胸腔鏡・腹腔鏡を併用し,横隔膜の瘻孔部を同定し,組織接着用シート(タコシールⓇ︎)とポリグリコール酸シート(ネオベールシートⓇ︎)を貼付後に,フィブリン糊(ベリプラストPⓇ︎)を噴霧し閉鎖した。症例2は67歳,女性。C型肝硬変で当院消化器内科へ通院中であった。経過中,胸水貯留による呼吸苦を認め,胸腔ドレナージを施行した。横隔膜交通症を疑い1例目と同様に閉鎖した。術後合併症なく両名とも退院された。横隔膜交通症に対する術式として低侵襲な鏡視下手術は有用であった。また縫縮が困難な場合には,組織接着用シートなどによる補強も選択肢の1つになると思われた。

  • 岡本 雲平, 北川 博之, 横田 啓一郎, 宇都宮 正人, 並川 努, 瀬尾 智
    原稿種別: 症例報告
    2023 年 43 巻 5 号 p. 923-926
    発行日: 2023/07/31
    公開日: 2024/01/31
    ジャーナル フリー

    症例は慢性腎障害と心房細動を基礎疾患にもつ79歳,女性。急激な腹痛を主訴に当院へ救急搬送された。腎機能障害のため造影剤は使用せず,腹部単純CT検査で総胆管結石症と診断されて入院となった。翌朝,意識障害と腹痛の増悪を認め,腹部単純CTで腸壊死が疑われた。造影剤腎症予防のため重炭酸ナトリウム液投与下に造影CT検査を施行したところ,上腸間膜動脈の血栓閉塞と同部支配領域小腸の造影不良を認め,急性上腸間膜動脈閉塞症の診断で緊急手術を施行した。小腸は広範囲に渡って壊死しており,410cmもの小腸切除術を要した。術後は救命し得たが,短腸症候群を生じた。心房細動を伴う急性腹症では,腎機能障害例でも腎保護対策をしたうえで造影CTで上腸間膜動脈閉塞症を正確に評価することが重要である。

feedback
Top