抄録
本研究の目的は,特別な教育的ニーズのある生徒が自己表現へと向かうプロセスを,創造的ノンフィクション(Creative Nonfiction: CNF)の手法によって描き出し,その変容を教育実践の中で捉えることである。CNFは,授業実践や対話の記録を基に,教育現場の複雑な経験を物語的に再構成するアートベース・リサーチの方法のひとつである。本研究では,特別支援学校(肢体不自由)高等部の準ずる教育課程における教科「情報」で実施したNHK for School『u&i』を用いた授業を事例として,第一に,生徒はいかに番組視聴を通して自己の語りを形成したのか,第二に,教師はいかに番組を活用し,自己表現の萌芽を支える学習環境を設計したのかを検討した。本研究は,生徒の自己表現が立ち上がる相互行為と文脈を描き出すとともに,教師の細やかな判断と場のデザインに関する実践知を明らかにした。さらに,CNFを教育メディアとして位置づけ,読者の省察を喚起する方法論的意義を示した。本研究は,自己表現支援を単なる技法ではなく,関係と環境を編み直す実践として捉え直すための視座を提示する。