選挙制度はどのように作られ,どのような運用を経て現在に至るのか。選挙制度の伝播と受容を日本の事例から論じるべく,選挙区の設定,一票の格差,間接選挙と直接選挙,選挙権者と被選挙権者,投開票の方法,選挙運動の制限といった視点からこの過程をみていくと,制度起草時の理念が現在まで色濃く継承されていることに驚かされる。憲法がドイツ(プロイセン),議会制度がイギリスを範型としたのに対し,選挙制度は特定のモデルを持たずに広く各国の制度を検討して,日本の実情に応じて作られたものであった。たとえば制度設計者たちが,選挙の正当性を確立するために「選挙の自由」を広く確保する一方で選挙管理者たちの不正に厳しく目を光らせていたこと,政府部内の不協和音を実地で解消することに腐心していたこと,その結果として選挙区は地方の実情を強く反映したものとなったことは,その後今日に至るまで選挙を規定したひとつの「制度」の確立として特筆されるだろう。