2017 年 33 巻 2 号 p. 21-40
2016年参院選の公示日直前と投票日直後における2波の全国パネル世論調査を扱う。2度の調査では主な項目で同一の質問を試み,公示期間前後の回答の変化を捉える。公示期間に選挙情報を得る上で役立ったインターネットとマスメディアの各々につき,自民党寄りの党派性を認識するメディアに囲繞される場合と囲繞されない場合を比べると,公示期間前後で政治意識に生じる変化は異なるか否かを検証する。この因果推論を伴う調査・分析の方法は,傾向スコア法とDifference-in-Differencesである。その結果,自民党寄りの党派性を帯びたインターネット環境では首相の独走を危惧しつつ自民党の独自路線を望む感情が増すほか,争点より外れた原発問題を重視する意識が減じた。また自民党寄りの党派性を帯びたマスメディア環境では,報道上の制約により優位に立つ自民党への好感が増すほか,争点化した安保法制につき自身と意見の異なる他者への好悪が変化した。