抄録
【はじめに】褐色細胞腫は大部分が良性とされ,術前・周術期の血圧,循環血液量管理を適切に行えば,腫瘍そのものの摘出はそれほど困難を伴うことはない。しかし,広義の褐色細胞腫に含まれる傍神経節腫はしばしば周囲臓器に浸潤し,合併切除が必要になることがある。また発生する部位が頸部から骨盤にわたり,影響を受ける臓器も多岐にわたる。浸潤が疑われる臓器に応じて異なる診療科に協力を依頼する必要があり,術前,周術期において特殊な管理を要する。【対象と方法】当科において2000年から2014年の間に行った褐色細胞腫初回手術129例中,術前画像検査で他臓器浸潤を疑われた10例を対象に診断方法,術式,特殊な対策などについてレビューした。【結 果】画像,病理診断から全例狭義の傍神経節腫と考えられた。右5例,左5例。浸潤が疑われた主な臓器は下大静脈,腎動脈,腎静脈,肝臓であった。1例が切除を術中断念した以外は,肉眼的治癒切除が可能であった。治癒切除できた症例のうち1例で再発をきたしたが,再手術後は健存である。【考察および結語】褐色細胞腫に含まれる傍神経節腫は周囲への浸潤がしばしばみられ,完全切除に困難を伴うが,治癒切除できれば,良好な予後が期待できる。また,非治癒切除にとどまったとしても,カテコラミン過剰による臨床症状の改善が期待できる。周囲臓器の合併切除を含めた積極的な治療方針が重要と考えられた。浸潤が疑われる場合,血行バイパスなどの準備や血管外科医・消化器外科医との連携など,周到に準備を整えておくことが,手術を安全に行う観点から重要と考えられた。