本稿は,アジア,とくに中国を中心としたEV生産拡大によるインパクトと課題を明確化した。ガソリン車で競争優位にあった日本や日系メーカー視点から,EV生産拡大の脅威,EVシフトへの課題を考察した。まず,ガソリン車からEVへの関心上昇は,環境対応が強調される。しかし,これまでのゲームを変化させようとする中国政府の強い意図と,それに従う中国自動車メーカーの積極的対応,さらに市場拡大があることを明確にした。ただEV生産では,走行時の排出ガスゼロを強調するだけではなく,その生産局面で発生する排出ガス等にも言及しなければならない。またアメリカや中国をはじめとして,自動車生産での環境規制の強化を取り上げた。そこにおいてもEVあるいはNEVへの優遇策と,HVが環境対応車には含まれず,排除される傾向にあること,規制強化を謳いながら自国のEVメーカー中心に支援している状況を取り上げた。その結果,中国ではEV生産台数が増加し,海外輸出を志向し,産業の柱の1つとして育成している状況に言及した。わが国の自動車メーカーは,ガソリン車やHVにより成果を上げてきたためにEV開発が遅れていることがしばしば指摘される。そして,日本のメーカーが圧倒的優位を誇ってきた海外市場における異変,完全にEVシフト体制を取ることへの躊躇についても取り上げた。EV化は,航続距離や蓄電池開発というEV自体の課題,充電設備拡充など,それを取り巻く課題もあり,EV生産シフト体制にリスクがあることを強調した。