1999 年 25 巻 6 号 p. 293-300
貯蔵性の優れている品種 “ふじ” と貯蔵性の悪い品種 “金星” のリンゴ果実を20℃で42日間貯蔵し, 貯蔵前と貯蔵後のそれらの果実から細胞壁を分離, 調製した。得られた細胞壁を逐次抽出法によって4つのペクチン質多糖画分 (CDTA-1, CDTA-2, Na2CO3-1およびNa2CO3-2), 3つのヘミセルロース画分 (KOH-1, KOH-2およびKOH-3) およびその抽出残渣 (セルロースリッチ画分) に分画した。得られたそれぞれの画分の重量について貯蔵前と後を比較したところ, “ふじ” ではそれぞれの画分の重量は20℃42日貯蔵後においてもほとんど変わらなかったが, “金星” では貯蔵後, Na2CO3-1画分が著しく減少していることが明らかになった。両品種から得たNa2CO3画分の糖組成を分析し, 両品種の貯蔵前と貯蔵後の糖組成を比較した結果, “金星” のNa2CO3-1画分のアラビノースとガラクトース含量割合は貯蔵後著しく減少していた。これらの中性糖の減少割合は “ふじ” に比べて著しく大きかった。これらの事実は “金星” の果実の軟化に伴って生じるNa2CO3-1画分の減少とNa2CO3-1画分からのアラビノースとガラクトース含量の損失量との間には密接な関係があることを示唆している。以上の結果からリンゴ果実の細胞壁成分のうちNa2CO3-1画分の主要なペクチン質多糖, いわゆるラムノウロナンIの高度に分枝したアラビノガラクタン側鎖の酵素的分解はリンゴ果実軟化過程に重要な役割を演じているものと考えられる。