Journal of Applied Glycoscience
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第16 回糖質関連酵素化学シンポジウム
ヒドロキシ基の保護を必要としない新規糖供与体の一段階合成
―糖加水分解酵素を用いる糖転移反応の効率化―
田中 知成小林 厚志野口 真人木村 敬一渡部 和仁正田 晋一郎
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2009 年 56 巻 2 号 p. 83-88

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抄録

糖加水分解酵素の糖転移能を利用した糖鎖合成反応は,酵素の入手が容易,糖転移酵素では実現不可能なオリゴ糖単位での転移が可能という利点を有していることから広く用いられている.さらには,pNP糖やフッ化糖のような優れた脱離基を有する合成糖供与体を用いることにより,反応効率の向上が可能である.しかし,これら合成糖供与体の調製は,多段階の工程が必要である上,アノマー位への脱離基の導入の際,グリコシド結合の開裂も懸念されることから,分子量が大きく分岐を有するオリゴ糖を合成糖供与体化することは困難とされてきた.我々はこれらの問題点を解決するため,糖のアノマー位のヒドロキシ基の反応性の高さに着目し,無保護糖を原料とした簡便な糖供与体合成法として,光延試薬を用いたpNP糖の一段階合成,水溶性カルボジイミド塩酸塩を用いた糖オキサゾリン誘導体の一段階合成を報告した.さらには,DMT-MMを用いた場合には,糖オキサゾリン誘導体が得られる他に,副生成物としてアノマー位にジメトキシトリアジンを有する化合物(DMT糖)が得られ,糖供与体として働くことが期待された.水溶液中での無保護糖とDMT-MMとの反応においては,グルコースなどの単糖,ラクトースなどの二糖,さらには分子量が大きく分岐を有するオリゴ糖にも適用可能であった.得られたDMT糖に糖加水分解酵素を作用させたところ,速やかに加水分解を受けたことから,DMT糖が有用な糖供与体となり得ることを見出した.合成したDMT-β-Lactosideを糖供与体とし,EGIIIによる糖受容体への酵素的ラクトシル化反応に成功した.また,合成したDMT糖を単離することなく無保護糖からのワンポットグリコシル化反応にも成功した.本DMT糖合成法は,従来の有機合成法では糖供与体の合成が非常に困難であったキシログルカンオリゴ糖にも適用可能であり,DMT糖を基質とした酵素的重縮合反応にも成功した.

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© 2009 by The Japanese Society of Applied Glycoscience
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