抄録
奈良少年刑務所は 100 年以上にわたって奈良県奈良市般若寺町地区に立地し,2017 年の閉庁後は,建造物の一部が重要文化財に指定されたほか,複合体験施設としての活用も目指されている。一方で,こうした建造物の残存に重要な要素となる刑務所の長期稼働に対して,地域住民がその存在をどのように受容してきたのかについては十分に明らかにされていない。本研究は,長きにわたる奈良少年刑務所の地域受容の要因を,地域住民との関係性に注目して明らかにすることを目的とした。
奈良少年刑務所が稼働していた時期においては,刑務所による職業訓練や奉仕作業といった開放的な処遇や教育体制が,地域住民が収容者を直接目にし理解するうえで,重要な機会を創出していた。 一方で地域住民側も,刑務所内でのサービス利用や刑務所近辺での遊び,刑務所関係者との日常的な交流などを通じて,刑務所への親しみを育んでいった。般若寺町地区内の施設や店舗での交流機会も含めて,こうした双方の直接的かつ多面的な関係性の構築が,奈良少年刑務所に対する地域受容に結びついたものと考えられる。こうした地域との関係性もまた,建造物だけにとどまらない歴史的価値として今後認知され続けることが重要と考えられる。