地理空間
Online ISSN : 2433-4715
Print ISSN : 1882-9872
16 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
  • 趙 文琪, 山下 亜紀郎
    2023 年 16 巻 2 号 p. 89-105
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル オープンアクセス
    本稿では,松本市中心部における20カ所の公共井戸・湧水を対象に,行政側の施策および住民側の意識と活動に着目しながら利用と維持管理状況を分析することで,それらが存続できる内的要因を住民による自発的活動の視点から考察した。 1990年代前後から,松本市によってさく井工事が行われたことにより,飲用としての公共井戸の機能が戻るとともに,親水空間や観光資源としての利用も始まった。住民清掃の形態は,町会や市民団体などによる定期清掃や当番清掃と,有志による個人単位の活動としての清掃活動に分けられ,それぞれに自発性がみられる。 こうした公共井戸・湧水における自発的維持管理が続けられる要因は二つと考えられる。一つは,喫茶としての新しい利用によって住民同士のコミュニケーションの場に発展してきたことで,所有意識が生まれたからである。もう一つは,住民が地域への責任感を持っているため,または観光客や利用者が増えたため,それらによって地域住民の規範意識が生まれているからである。それにより,地域住民の清掃の動機や意欲が高まり自発的活動が続けられていることがわかった。
  • 加賀美 雅弘
    2023 年 16 巻 2 号 p. 1-12
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル オープンアクセス
    ヨーロッパの地域理解は,従来,自然環境や文化の地域的多様性,EU による政治・経済統合などに着目して進められてきた。一方,移民や難民といった,いわゆるエスニック集団に関する理解は少ないままである。固有の歴史や文化をもつ集団でありながら,彼らの視点から理解しようとする機会は意外なほど限られている。たとえば中学・高等学校の地理学習でも,彼らの流入が取り上げられているものの,よそからヨーロッパに加わってきた集団として位置付けられ,彼らについては理解しにくいままである。しかし,外国人がますます増えるヨーロッパの理解に彼らの存在は不可欠であり,そのための新しい視点の提示が必要であろう。ここではエスニック集団に着目した地域理解の可能性について論じた。
  • 奈良県奈良市般若寺町地区を対象として
    岸本 直美, 淡野 寧彦
    2023 年 16 巻 2 号 p. 25-38
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル オープンアクセス
    奈良少年刑務所は 100 年以上にわたって奈良県奈良市般若寺町地区に立地し,2017 年の閉庁後は,建造物の一部が重要文化財に指定されたほか,複合体験施設としての活用も目指されている。一方で,こうした建造物の残存に重要な要素となる刑務所の長期稼働に対して,地域住民がその存在をどのように受容してきたのかについては十分に明らかにされていない。本研究は,長きにわたる奈良少年刑務所の地域受容の要因を,地域住民との関係性に注目して明らかにすることを目的とした。 奈良少年刑務所が稼働していた時期においては,刑務所による職業訓練や奉仕作業といった開放的な処遇や教育体制が,地域住民が収容者を直接目にし理解するうえで,重要な機会を創出していた。 一方で地域住民側も,刑務所内でのサービス利用や刑務所近辺での遊び,刑務所関係者との日常的な交流などを通じて,刑務所への親しみを育んでいった。般若寺町地区内の施設や店舗での交流機会も含めて,こうした双方の直接的かつ多面的な関係性の構築が,奈良少年刑務所に対する地域受容に結びついたものと考えられる。こうした地域との関係性もまた,建造物だけにとどまらない歴史的価値として今後認知され続けることが重要と考えられる。
  • 河原 昂平
    2023 年 16 巻 2 号 p. 63-74
    発行日: 2023年
    公開日: 2024/03/20
    ジャーナル フリー
    本稿は,岡山県真庭市を対象に,過疎化が進む中山間地域の住民や高齢者のソーシャル・キャピタル維持・醸成にコミュニティバスが果たす役割と,その課題を明らかにした。アンケートや聞き取り調査をもとに統計分析を行った結果,コミュニティバスの継続的な運行は,情報やネットワークの拡大など社会的なつながりを生み出し,ソーシャル・キャピタルの醸成に効果があることが示された。また,地域やコミュニティに存在するつながりやネットワークがコミュニティバスに持ち込まれれば,ソーシャル・キャピタルのさらなる醸成が期待できることも示された。現状におけるコミュニティバスは,「移動手段」と考える人が多くを占める一方で,将来的な必要性は,2 地区とも半数以上となっている。今後の高齢者の移動手段の担保や安全・安心な移動の環境構築に貢献し,移動時の「つながりの場」の提供など,重要な役割となると考えられる。
feedback
Top