2018 年 10 巻 2 号 p. 105-118
本研究は多国籍企業における内部化理論を軸として、2つのコントロール・メカニズムと海外事業の業績との関係を考察した探索型研究である。2つのコントロール・メカニズムとは、出資比率などの公的コントロール・メカニズムと価値観の共有などの組織的コントロール・メカニズムのことである。
日系企業の海外投資額は年々増加しているが、その収益性は高いとは言い難い状況にある。一方、海外事業の拡大により、企業が事業運営で考慮すべき外部要因が多様化して経営が複雑化するため、組織マネジメントの特性が業績により影響すると考えられる。
本研究では日系上場電機・機械・精密機器企業106社を対象として、海外拠点の公的なコントロール・メカニズムである「経営権の確保」の状況を確認するとともに、組織的コントロール・メカニズムに影響を及ぼすと考えられている「経営者の特性」を調査し、業績との関連性を分析した。
その結果、ほとんどの企業が海外投資先を子会社化して経営権を確保し、グループ支配を強化する方向にあった。しかし、グループ支配の強弱と収益性および海外事業の成長性の高低との間には一定の傾向は見受けられなかった。また、経営者の特性について、創業者一族が所有と経営の双方に関与する場合、収益性と海外事業の成長性が高い傾向にあった。但し、低業績のファミリー企業および高業績の非ファミリー企業も存在していた。
本研究の貢献は、日系企業の海外事業の成否について、マネジメントの視座から分析するアプローチとその結果を提示したことにある。今後の課題として、データの充実、高業績企業と低業績企業の比較事例研究、株主や取締役会の多様性など調査設計の拡充などが挙げられる。