2019 年 11 巻 2 号 p. 1-13
日本企業にとってクロスボーダーM&A とクロスボーダー・アライアンスの戦略的重要性が増してきている中、その統合マネジメントに関しては必ずしも研究の蓄積は多くない。本稿は2018 年度の国際ビジネス研究学会の全国大会の基調講演をベースに、クロスボーダーM&A においては買収後統合(Post-Merger Integration: PMI)、クロスボーダー・アライアンスにおいてはアライアンス・ガバナンスと呼ばれる“統合マネジメント”が国際ビジネス研究のフロンティになりうる可能性、そしてこの2つの研究が相互補完的な関係になりうる可能性を基調講演のゲスト企業2社の事例も紹介しながら問いかける。
企業がアライアンス管理に関する知識を収集、共有、保存し、この知識を現在および将来のアライアンスに適用する能力を指すアライアンスマネジメント能力に関しては相応の研究蓄積があるが、今後はトラスト、資源の相互補完、アライアンス・ガバナンス(パートナーの機会主義的行動管理)の研究が重要となってこよう。M&A 研究においては「どのような( 事前の) 条件で、企業買収するのか?」から「どのように買収企業を選択し、統合するのか?」 へと重点がシフトしてきた。PMI 手法は、戦略的相互依存性と組織的自立性という2軸で分類しうるが、相互依存が高く、組織的自立性も高いことによってシナジーが期待できる場合は“共生型”のPMI が適切な場合があり、今後は共生型をどうマネージするかの研究が必要になるだろう。
日産(とルノー)の事例は、2社の戦略的アライアンスという側面とルノーによるPMI という2つの側面で見ることにより多様な示唆を得る可能性があること、時間をかけてシナジーを実現してゆくプラスとマイナスがあることなどが見えてこよう。リクルートの事例はクロスボーダーM&A における共生型の先進事例であり、その背景として明確な経営戦略を持つことの重要性を示している。