2020 年 12 巻 2 号 p. 49-64
これまで、多国籍企業の海外現地法人における人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係を実証的に分析した先行研究は少なくないが、それらの先行研究における実証分析の結果は、必ずしも一致していない。本稿では、そのような分析結果の不一致を説明し、また人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係に影響する要因を明らかにするためのひとつの視点として、ホスト国における制度環境の変化に注目した。ホスト国の制度環境が変化すれば、そこで活動している組織(現地法人)に与えられるプレッシャーや求められる行動も変化し、人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係も同様に変化すると考えたのである。
そのような、ホスト国における制度環境の変化が海外現地法人における人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係に与える影響を検証するために、本稿は、WTO 加盟前後の中国において、日本企業の現地法人におけるトップマネジメント人材の現地化と現地法人のパフォーマンスとの関係がどのように変化したのかを、長期間のデータを用いて実証的に分析した。その結果として、日本企業の現地法人におけるトップマネジメント人材の配置の傾向、およびトップマネジメント人材の現地化と現地法人のパフォーマンスとの関係が、WTO 加盟前後の中国において変化していることを明らかにした。具体的には、WTO 加盟前の中国において、とりわけ日本企業の出資比率が低い場合にトップマネジメント人材の現地化は現地法人のパフォーマンスを高めていたのに対して、WTO 加盟後の中国においては、そのような現地化の正の影響は見られなくなり、逆に現地化の負の影響(現地法人トップに日本人を置くことの正の影響)が見られた。
本稿の分析結果は、ホスト国の制度環境が変化することで、海外現地法人が直面する現地適応のプレッシャーも変化し、人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係も変化する可能性があるということを意味している。制度環境の影響を分析する上では、本稿のように同一国内での制度環境の変化に注目するという方法以外にも、たとえば同一時点における人材配置と現地法人のパフォーマンスとの関係を複数の異なる国で比較するという方法もありうるが、そのような静態的な分析ではとらえられない制度環境の時系列的な「変化」の影響を、長期間のデータを用いることで動態的に分析したことは、本稿の独自の貢献点のひとつと考える。