国際ビジネス研究
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日本企業の新興国インフラ事業の成功要因の一考察 : 開発効果とリスクマネジメントの視点を中心に
井川 紀道
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2011 年 3 巻 2 号 p. 115-128

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抄録

日本企業のインフラ事業への関与は、主としてEPC(設計,調達,建設)から始まったが、部材輸出、機材輸出ではスマイルカーブの底辺でのビジネスであり利が薄く、システム輸出、インフラ事業の運営が求められている。政府の成長戦略でも、この点が重要な柱となっている。然るに、インフラ事業は、潜在的に政府干渉リスクの高い分野であり、しかも、日本企業は欧米のメージャーに比較して後発である。新興国企業の台頭も近年著しい。こうした背景のなか日本企業が海外とくに新興国でのインフラ事業を今後中長期にみて、収益の柱としていくための成功要因について探求した。その際、必要な政府のサポート、オールジャパンの外交的支援があり、さらに、技術力、価格競争力、運営のノウハウ、グローバルな人材管理能力の面については、必要な経営資源が備わっているという前提でまずは考察した。まず、先行研究、国際機関の報告、事例から成功要因を探った。これと並行して作業仮説を立て、代表的な商社等からヒアリングを実施した。次に、この結果抽出された成功要因について、仮説とそれに付随する系、対立仮説に整理してこれらの日本企業に対して調査表を配布・回収し、その妥当性についての数量的評価を得て、同時に仮説・命題間の相対的な重要度の評価を求めた。また、同調査表を欧米の海外投資専門家・有識者に対して送付し、日本企業・組織からの回答と違いがあるかを考察した。この結果、成功要因として、新興国のインフラ事業の特性の認識がその前提として重要であり、リスク、開発効果を十分に斟酌すべきこと、事業実施前、実施後のリスクマネジメント能力獲得が通常のビジネスの成功要因とみられる技術力、価格競争力、グローバル人材管理能力に優って重要な成功要因であることが判明した。その他では、海外専門家との対比で、日本企業ではローカル・パートナー活用が特に重視されていること、高収益事業の回避傾向がそれほど強くないことなどの特徴が明らかになった。

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